護身用ナイフを持っていたら父ちゃんと母ちゃんにこっぴどく怒られた!!
モンタが刃物を持っていた。
「なんなのこれ!?」
母は父を呼んだ。
「お父さん!モンタがこんなものを!」
「モンタ、なんだこれは?こんなものを学校に」
モンタはうつむいている。
「なんとか言ってみろ!ケンカに使うつもりなのか!?」
モンタは顔を真赤にしている。父は怒鳴りつけた。
「いつも言ってるだろ。卑怯なことはするなって!人様を傷付けるつもりだったんだろ!?」
モンタは目を見開いて首を振った。
父はモンタをひっぱたいた。
「言い訳をするな!」
「違う、僕は……」
「口応えをするな!」
父がモンタの肩を突き押すとモンタは泣き出した。父は溜息をついた。
「はぁ~、弱いなあぁ~。泣くばっかりだ。メソメソするな!!」
母が怒鳴りつけた。
「早く学校に行きなさいっ!!」
モンタが泣きながら言った。
「ぼ、僕が、リンチされて殺されたら、お父さんとお母さんは……、どうするの?」
「その時は人並みの葬式してあげるわよ!」
「お前が優しくしないからだろうが!悪いと思ったら潔くあきらめて堂々と謝れ!!」
モンタは泣きながら学校へ行った。
その日の夜、モンタが帰ってこない。
「モンタはどうした?」
「今日は遅いわね」
「またエロ本を探して公園をうろついてるんだ。どうしようもないやつだ」
電話が鳴った。警察からだった。
「えっ!?モンタが」
「どうした」
「モンタが学校で自殺したって……」
冷たくなったモンタが霊安室で横たわっていた。
「背中と腹を自分で刺して自殺したようです」
警察官から説明された父は吐き捨てるように言った。
「情けない」
「遺書はこちらです」
ヨレヨレの字だ。まるで誰かに手を持たれて書かされたようにも見える。
『お父さん、お母さん、勉強がつらいので自殺します。さようなら。気にしないでください。誰のせいでもありません。全部僕の責任です。』
次の日、学校では校長がモンタの両親を迎えた。モンタの父は謝った。
「うちのモンタが迷惑かけて申し訳ありません」
「まったく当校としても生徒に自殺されて迷惑しています。マスコミは来るし、まったく!」
「すべてうちの子の責任です。申し訳ありませんでした。」
「ではここにサインをしてください」
モンタの父は出された書類にサインをした。
『甲(モンタの遺族)は乙(学校)に対して一切の損害賠償請求をいたしません。イジメは存在しなかったことを認めます』
判をつくと校長の頬が緩んだ。
「いやはやモンタくんには前々から迷惑していましてね。彼がいるせいで生徒たちが苛立っていつも殴ったり蹴ったりと、非常に問題が多かった。モンタくんが死んでくれたお蔭で当校も平和になります」
「そうだったのですか。学校や他の生徒さんにそんな迷惑を……」
モンタの父と母は深々と頭を下げた。校長は満足げに頷いた。
「最近は自殺したのは学校の責任だと文句を言ってくるモンスターペアレントもいますからね。そうやって素直に謝っていただけると当校としても助かります」
全校集会が開かれた。モンタの父と母は全校生徒に謝った。教師たちが命の大切さを説いた。
「ふぅー、全くしょうがないやつだったな」
「でも、モンタがいなくなると少し寂しいわ」
「なーに行ってるんだ。さっと切り替えて前に進まなきゃ」
「そうね。忘れるのが一番!」
モンタの弟、カンジが言った。
「お兄ちゃん、死んじゃったの?」
「ああ、自殺だ。まったくだらしがないやつだ」
「お兄ちゃんはエロ本見ながら☓☓☓してたんだよ」
「まぁ、汚らしい」
「そんなことばかりしてるから自殺するんだ」
「これから僕が長男だね」
「そうだ。カンジが一人息子だからな」
「僕、お兄ちゃんの分まで幸せになるよ!」
家族3人は笑いあった。
数日後、家に匿名の手紙が届いた。
『モンタくんのお父さんお母さんへ。私はモンタくんの同級生です。モンタくんは自殺ではありません。殺されたのです。毎日のようにお金をせびられ、殴られたり、蹴られたり、愛のあるイジリだと命令されて☓☓☓を皆の前でさせられていたのです』
『あの日、もんたくんはいつものようにイジメらて謝り続けていました。そしていつものように愛のあるイジリだとしてズボンを脱がされそうになったのですが、抵抗したのです。すると奴らは逆らうのか!とモンタくんに乱暴し、そしてナイフで脅したのです。モンタくんにお金をもってこいと言いましたがモンタくんは泣きながら謝るばかりでした。そしてモンタくんは手を持たれて遺書を書かされ、お腹と背中を刺されて教室で殺されたのです。いじめた生徒たちモンタ君の苦しむ顔をみながら☓☓☓をしていました。この変態殺人鬼どもの名前は……』
モンタの父が溜息をついた。
「情けない。困難に負けない子に育てるために厳しく突き放してきたのに」
「厳しさが足りなかったのね」
「あの子はカンジと違って生まれつきおとなしかったからな、いつも親の顔色を伺うようなところがあった。」
「怖い話をするといつも大げさに怖がっていたもんね。」
「だから恐れを知らない人間にするために厳しくしつけたつもりだったんだけどな」
「カンジにはその分優しくしてきたもんね」
家にマスコミがやってきた。イジメを告発する匿名の手紙が届いたという。
「同級生が書いたものだと思われますが」
「あー、うちにも届きましたよ」
「犯人たちの名前も書いてあります。学校や相手生徒を訴えるおつもりは?」
「訴えようにもお金がかかるし……。弁護士費用だって100万からかかる」
「でも息子さんの命を奪われているのですよ?」
「いや、もう我々家族は過去のこととしてスパッと忘れて、前に進みたいのです」
記者は食い下がった。
「その日の朝、モンタくんがナイフを持っていたとおっしゃいましたよね?」
「ええ、すぐに取り上げました」
「それは護身用ではないのでしょうか?命の危険を感じていたからでは?」
「そうだとしても如何なる理由があっても暴力はいけないし、堂々と話し合えば道は開けるはずです」
「学校でのイジメが問題になっていますが、モンタくんはずいぶん悩んでいたのではないでしょうか?学校に刃物を持っていこうとするまで追い詰められていたのでは?」
「いや~、アイツは泣くばっかりで何も言いませんでしたよ」
記者がモンタの母に言った。
「それはお父さんやお母さんが心配すると思って言えなかったのでは?」
「そんなふうには思えなかったけどなぁ~」
父が声を荒げた。
「モンタが死んだことでイジメは解決したはずです。あなた方は一体何をさせたいのですか?モンタの敵討ちでもさせたいのですか?復讐では争いは終わらないのです。憎しみの連鎖が続くだけです」
「いじめは犯罪だという声もありますが」
「イジメはイジメられる側に問題があるのです。マスコミがそうやってなんでもかんでも犯罪だの人権だの言うからイジメが大きな問題になるのです。モンタは弱い子だった。それだけです」
「幼少時のモンタくんが『怖い話』を大げさに怖がっていたのはお父さんとお母さんを喜ばせるためでは?」
「どうして?」
「『怖い話』をしたとき、大いに怖がられたほうが話し手としては嬉しいものだと思いませんか?」
「そう思うか?」
モンタの母は首を振った。
「あの子は小さい頃から気が弱かったし!!」
「イジメなんて我々の子供の頃からあったことだし、こんなことに負けるようでは厳しい社会を生き抜いていけませんよ」
「叩くのがイジメだったら、あの子が生まれた頃からむずかる度に叩いてきたし、私達こそイジメっ子になってしまうもんね」
「親が子供をイジメるわけはないわな」
モンタの父と母はうなずきあっていた。記者はそれ以上何も言わず帰っていった。
頭のおかしい親から生まれたらおしまいなのだ。