表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/167

貸本屋の恋愛事情3:文車妖妃と髪鬼

 遠近さんが案内してくれたのは、大通りから一本横に逸れたところにある、かつては「張見店(はりみせ)」と呼ばれた妓楼だった。


 その辺りはすでに幽世に馴染んでいるらしく、遊女たちの声は聞こえてこない。


 あやかしが棲まう世界に染まった吉原の建物は、どこか幻想的な姿へと変わっていた。


 絢爛豪華な朱色の建物の前は、一面鬼灯の群れに覆われている。本来は夏から秋にかけて見頃を迎える鬼灯なのに、遠近さんによると、この辺りでは一年中咲いているらしい。袋状へ変化した萼が白い雪の中から顔を覗かせていて、どこか寒そうだ。


「どうして鬼灯……?」


 首を傾げると、遠近さんは苦々しい様子で言った。


「鬼灯は、江戸時代には堕胎薬として用いられていたんだよ。……ある意味、この場所にとても相応しいんじゃないかと思う」

「そう、ですか」


 息を呑み、途切れ途切れに答える。金目に気にするなと言われたにも拘わらず、どうにも胸が苦しくなって足を止める。


 改めて建物を眺めると、そこは妓楼独特の造りをしていた。

 張見店と言えば、一番に想像するのが、建物の壁面に設置された格子で囲われた部屋だろう。吉原を取り扱った作品などでよく知られているが、かつてはその格子の向こうに遊女たちが並び、往来を歩く客たちにその姿を晒していたそうだ。ただ、遊女たちがいなくなった幽世の吉原では、別のものがその場所を占拠していた。


「……綺麗」


 格子の奥――そこの天井から下がっているのは、淡い紫の花が鈴なりに生った藤の花。

 しとやかな印象の藤の花は、風が吹く度にチラチラと揺れて、格子越しに舞い込む冬の冷たさに耐えている。花々の合間を、幻光蝶が遊ぶように飛ぶ様は、美しくありながらも、どこか別の世界の光景のような風情があった。


 ――藤の花は、古来から女性の象徴とされてきたんだっけ。やっぱり、ここは幽世に於いても女性の場所なんだなあ……。


「夏織、ここにいたら冷える。早く行こう」


 ぼうっと幻想的な光景に見蕩れていると、水明が私の背中を軽く押した。

 ハッとして歩みを再開する。一面に生えている鬼灯を避けるように細く作られた道を踏みしめ店内に入ると、そこに小さな影をふたつ見つけた。


「ようこそおいでなんし」

「姫がお待ちでありんす」


 それはふたりの禿だった。五歳ほどの童で、腰くらいまで伸ばした髪をまっすぐに切り揃えている。ひとりは梅の簪を、もうひとりは桜の簪を身につけていて、揃いの紅い着物を着ていた。


 ふたりはにっこりと笑みを浮かべると、しずしずと奥へと歩き出す。


 靴を脱いだ私たちは、禿の後に続く。妓楼の室内は絢爛豪華の一言だった。


「すごい……!」


 柱は朱色に塗られていて、部屋を区切る欄間には凝った意匠が施されている。襖には花の盛りを迎えた藤の花が描かれ、朱色が多く使われた調度品と上品な紫色の対比が美しい。それが何部屋も何部屋も連なっているのだ。しかし、当時遊郭として栄えていた現し世の吉原と違い、幽世の吉原には人っ子ひとりいない。豪奢で広大な部屋は、どこかもの悲しさを感じさせた。


 やがて建物の中央辺りまで来た。吹き抜けになっていて、そこには中庭があり、雪を被った井戸と、大きな藤の木が生えている。雪に白く染められながらも、ハラハラと紫の花びらを零す様はまるで一枚の絵画のようだ。すると、禿ふたりはくるりとこちらを振り返って言った。


「どうぞお二階の冬の間へ」

「お酒も用意してござんす」


 禿ふたりはそう言うと、階段を上っていった。きし、きしと音を上げる階段を昇り切ると、長い廊下に出る。薄暗い廊下に沿っていくつか部屋があるようで、それぞれの襖には日本の四季が描かれていた。禿ふたりは、雪で埋もれた松が描かれた襖の前まで行くと、両脇にしゃがみ込み、そっと手をかけた。


文車妖妃(ふぐるまようひ)様」

髪鬼(かみおに)様」

「「お客様がお見えでござんす」」


 スルスルと襖が開いていく。

 なにが待っているのだろう――。ゴクリと唾を飲み込むと、襖の向こうに誰かが座っているのが見えた。そこにいたのは、ふたりの人物だ。


「遠近!」


 ひとりは、目が覚めるほど美しい少女だった。


 初雪のように白く長い髪は蝶の明かりを浴びて艶めき、畳の上に広がっている。

 肌は血が透けるほどに白く、そのせいかほんのり紅く染まった指先や頬が際立ち、やけに色っぽい。長い睫毛に彩られた瞳は藤色、気の強さを示すようにツンと吊り上がっていて、柔らかそうな唇には紅が差され、同じ紅で目尻を染めていた。二重に羽織った打ち掛けは、朝焼けに染まった霞のような白。一瞬、無地かと思ったがよくよく見てみると、微妙に色合いの違う白い糸で藤の花の文様が刺繍されている。下地の布も見るからに上等で、そこに刺された白藤は恐ろしいほど精緻だ。


「おいでなんし、遠近。また新しい本を持ってきてくれたでありんすか!」


 少女はパッと頬を染め、嬉しげに遠近さんに近づこうと四つん這いで動き出した。

 けれども、すぐに顔を歪めた。後ろにいた人物に髪が引っ張られたのだ。少女は、どこか恨めしげな顔で背後にいる男性を見つめた。


「妖妃、髪結いの途中だろう? まだ、俺の腕の中にいろ」

「ああん、じれっとうす。はようしておくれなんし!」


 よほど遠近さんの傍に行きたいのか、少女はお腹の前で結んだ豪奢な桃色の帯を、ポコポコと不満げに叩いた。男性はクツクツと喉の奥で笑うと、ゆるりと手にした櫛で少女の髪を梳る。急ぐつもりはちっともないらしい。


 その男性は、少女とはまるで違う色合いを持っていた。


 少女はしんしんと降り積もる雪ならば、男性はそこに落ちる影といったところだろうか。

 髪色は黒に近い茶。長い髪を頭の天辺で高く結っている。

 太陽の恵みを感じさせるような焦げた肌を持ち、涼やかな目もとには、大きな泣きぼくろ。かぎ鼻はやや捻れていて、口角が常に上がっている。身に纏っているのは漆黒の小紋。帯には、少女の打ち掛けと同じ布で作られた煙草入れと煙管入れがぶら下がっている。


「それに妖妃の髪結いが俺の仕事だ。仕事には誠実でありたい。急ぐわけにはいかない」

「そう言って、もうこんな時間じゃあおっせんか。いつになったら、わっちの島田髷は完成するんでありんしょう?」

「さあ。確実なことはなにも言えないな」

「もう、もう、もうっ! 髪鬼! いい加減にして!」


 唇を尖らせた少女に、男性はクスクスと笑うと再び腕を動かし始めた。鶯色の瞳はうっとりと少女の髪に落とされて、彼が動くたびに女性ものだと思われる簪が揺れた。


 ――じ、自分たちの世界に浸っている……。


 これは声をかけても大丈夫なのだろうか。思わずまごついていると、遠近さんがゴホン、と咳払いをした。それで現実に戻ってきたらしい。小さな悲鳴を上げた少女は、慌てて居住まいを直すと、私たちに座布団を勧めた。そして私たちが座ると、自己紹介を始めた。


「挨拶が遅れて、あいすみません。遠近以外は初めての方ばかりのようでありんすな。お初にお目にかかります。わっちは文車妖妃。そして、わっちの髪をしつこ~く弄り倒している男が髪鬼でありんす」

「弄り倒しているのではない。愛でているのだ」

「髪鬼。ちっと黙っていておくれなんし。面倒。静かにして」

「フフ。冷たい態度の妖妃もまた一興! 俺は髪結いに集中することにしよう」


 ――キャラが濃い……。


 呆然とふたりの様子を見つめる。水明は眉を顰め、金目はお腹を抱えて笑っている。


「相変わらず、君たちは興味深いよ」


 遠近さんは肩を竦めると、彼らについて教えてくれた。

 文車妖妃は、一言で言うと恋文のあやかしである。鳥山石燕「画図百器徒然袋」に描かれているあやかしで、想いが届かなかった恋文に宿った執着心が化けたものだ。


 髪鬼に関しては、実のところその生まれはよくわかっていない。

 古来より日本では、髪に不思議な力が宿ると信じられてきた。良いものも悪いものも含めて、色々なものが細長い一本の髪の中に閉じ込められている……と。髪鬼は、髪自体が鬼になったものだとも、女性の怨念が男に取り憑き、際限なく髪を伸ばし続けているものだとも謂われている。


「で、実のところ君はどういうあやかしなんだい?」


 遠近さんが髪鬼に訊ねると、彼はフフ……と意味ありげな笑みを浮かべ、頭上の簪を指で触れて一言鳴いた。


「テッペンカケタカ」


 ――どうも、まともに答えるつもりはないらしい。髪鬼は簪についた錫製の不如帰を指でチリチリと鳴らすと、また鼻歌混じりに文車妖妃の髪を弄り始めた。


 すると、髪鬼の膝の間にちょこんと座った文車妖妃がため息と共に言った。


「……はあ。コレのことは忘れておくれなんし。とんでもない変態で、わっちも困っているんでありんすよ」

「はは……そうですか」


 ほとほと疲れ切ったという様子の文車妖妃に苦笑していると、遠近さんが本題に入った。


「実はね、今日は本を届けに来たわけではないんだ」

「え。そうざんすか。それは残念でありんす……」

「悪いね。新刊が出たらすぐに届けるよ」

「ようざんす! 次のおいでが益々楽しみになりんした。お代は気にせず、たくさん持ってきておくれなんし」


 ――どういう関係なんだろう?


 ふたりのやり取りを疑問に思っていると、遠近さんが教えてくれた。


「文車妖妃は古い友人でね。彼女に直接、恋愛物の作品を卸しているんだ」

「あ、そうなんですか……」

「彼女は欲しいものは自分の手もとに置いておきたいタイプでねえ。だから、貸本屋には縁がなかったんだよ」

「せっかく好きになった本を手放すなんて。そんなこと、絶対に嫌でありんす!」


 すると、文車妖妃はツンとそっぽを向いた。そういう考えのあやかしもいるだろうとは思っていたが、実際に会うのは初めてだ。


「文車妖妃は、そんなにたくさん本を持っているんですか?」


 興味が湧いてきて訊ねると、文車妖妃はどこか自慢げに頷いた。

 そして、後ろで控えていた禿たちに目配せをする。すると、彼女たちは部屋の奥にある襖を開け放った。


「……わあ!」


 襖の向こう。そこには壁一面に大きな本棚が設置されていた。小説から漫画、はたまた雑誌までが綺麗に並べられている。その迫力に呆気に取られていると、


「フフフ。これっぽっちじゃありんせん」

 と、文車妖妃はニタッと不敵な笑みを浮かべた。


 すると、しずしずと室内を移動していた禿が別の襖を開けていく。

 ――すたん、すたん、すたん、すたん!


「……これは」


 次々と襖が開かれていくと、そこに新たに本棚が顔を出す。ここは、襖で仕切られていただけで、元々は巨大な一間だったらしい。見渡す限り、恋愛物の作品が収められた本棚が続いているではないか!


「恋愛と名がつくものは、すべて手に入れるつもりでありんす。これだけ集めてもまだまだ……恋愛物は本当に奥深いでありんすなあ……」


 ほうと息を漏らした文車妖妃の頬が桜色に染まっている。本当に心の底から恋愛物の作品を好んでいるらしい。


 ――これなら、水明が読める恋愛作品を知っているかも!


 期待を籠めて文車妖妃を見つめる。すると、彼女はこてりと不思議そうに首を傾げた。

 私はキラキラと目を輝かせると、彼女に心からのお願いをしたのだった。




「ウッフフ。腕が鳴りんすねえ」


 上機嫌の文車妖妃がずらりと並んだ本の背表紙を眺めている。


 ――水明が楽しめるような作品を。


 私の求めに応じて、本をピックアップしてくれているのだ。


 けれど――。


「髪鬼、もそっとそっちへ。あん、はやくしてくれなんし!」

「わかっている」

「うぅ……」


 目の前で繰り広げられている光景に、私はどうすればいいかわからないでいた。


 視界の中で白い足が暴れている。

 爪先を紅で赤く染めたとても可愛らしい足だ。その足が暴れるたび、深紅の襦袢がちらりちらりと顔を出し、ともすればその奥まで見えそうになる。上半身だって目が当てられない。彼女が手を伸ばすたびに袂が緩んで、白い柔肌が垣間見えるのだ。


「――水明!」

「見てない。なにも見てないから離せ」

「駄目! 絶対に駄目!」


 必死に水明の目を隠して、すぐ傍で繰り広げられている嬌態から自分の目を逸らす。


「遠近さん! どういうことですかあ!」


 思わず、少し離れた場所で本棚を物色していた遠近さんに訊くと、彼はなんでもないことのように言った。


「文車妖妃は足が悪いんだよ。だから髪鬼が運んであげているのだそうだ」

「運んでいるだけではない。時々、髪の匂いを嗅いでいる」

「髪鬼、黙っていておくれなんし!」

「アッハハハハハ! やば……面白すぎる。銀目、連れてくればよかったなあ!」


 大笑いしているのは金目ばかりで、文車妖妃は髪鬼の頬を引っ張っているわ、当の髪鬼はうっとりと腕の中の文車妖妃を眺めているわ、私は水明の目を隠すので動けないわで、正直てんやわんやだ。


「もう、お二人が仲がいいのはわかりましたから!」


 我慢できなくなってそう叫ぶと、髪鬼の腕の中に収まっていた文車妖妃が、心外とばかりに冷め切った声で言った。


「わっち、別に髪鬼のことは欠片も好いてはありんせん」

「へっ……?」

「髪鬼はわっちを好いているようでありんすが、正直、わっちゃあ(わたしは)嫌よ」

「…………」


 あまりのことに、髪鬼を凝視する。すると彼は、ほんのりと頬を染めて笑った。


「今日も文車妖妃は冷たいな。だがそこが彼女の魅力でもある。劣情を全力で煽ってくる感じ……いい」

「――そういうご趣味で?」


 思わず訊ねると、髪鬼はまるで晴れ渡った空みたいに爽やかな顔で頷いた。


 ――なんだこれ……。


 思わず脱力していると、本を選んでいた文車妖妃が言った。


「わっちを好いているというから、便利に使ってやっているだけでありんす。早く、好きなおなごでも作って、出て行けばよろしいと申しんしたのに」

「俺の心はいつだって君のものだ。というか、自慢ではないが俺は甲斐性がない。妖妃、君が養ってくれなければ一週間後には干からびているに違いない」

「食い扶持ほしさ。そういうことでありんすか……」

「いや、断じて違う。妖妃の髪の毛が一等好きだからだ」

「ひっ……!」


 サッと文車妖妃が青ざめる。髪鬼はというと、その隙を突いて胸いっぱいに深呼吸していた。……今、匂いを嗅いだな。この人……。


「まあ、それはともかく! どうでしょう? いい感じの本はありますかね?」


 なんだかしょっぱい気持ちになってきたので、水明の目隠しをやめて話題を逸らす。すると文車妖妃は小さな唇をツンと尖らせて、ううんと唸った。


「恋愛物ほど、登場人物を理解できないと楽しめないものでありんす」

「理解?」


 首を傾げる。隣で話を聞いていた水明も興味があるようで、真剣に耳を傾けている。


「恋愛物に拘わらず、本を読む時に誰もが無意識にしているのは、登場人物に欲求を委ねることでありんす。それは誰かに認められたい、甘やかされたいという心でも、好いている男と相思相愛になりたいという願い、見知らぬ地を冒険したいという夢でもいいでありんすなあ。現実では簡単に達成できなさそうな欲求を登場人物に託す。よほどのことがない限り、物語の登場人物は成功体験を得るでありんしょう? 人はそこに面白さを見いだしている……と、わっちは考えているでありんす」


 文車妖妃は、本棚にずらりと並んだ背表紙に視線を滑らせて言った。


「その考えを基に話を進めるとしたら、本に、そして物語に夢中になれるかどうか……それを決めるのは、登場人物が自分の欲求を託すに値する人物かどうかでありんす。誰だって、よくわからない相手に大切な物を預けたくござりんせん」


 そして悪戯っぽく目を細めた文車妖妃は、私と水明、金目を見て言った。


「わっちは、恋文の化身でありましょう? 恋文というのは、人の心が刻まれたもの。魂の叫び、心からの祈り、願い。だからわっちは、人の心が手に取るようにわかるでありんすよ。ほら、そこの姉さん」

「えっ……私ですか?」


 驚いて自分を指さす。すると、文車妖妃は紅で紅く染まった目尻を下げて、どこかうっとりとした様子で言った。


「姉さんは、そもそも恋愛というものに慣れていないのではおっせんか。惹かれる心は持っているのに、それを持て余している……フフ、うぶでありんすねえ。歳は重ねても恋する心は未だ赤子のまま。かぁわいい。きっとなにも知らないまっさらな主人公がお似合い。それと、そこの白い兄さん」

「…………なんだ」

「大変でありんすな。なにもかもが未知。異文化に裸一貫で放り込まれたようなもの。お寒うお寒うと震えているところに、温かな物が傍にあることに気がついたばかり。それに触れていいのやらわからなくて、でも日々増していく執着に」

「――……やめろ」


 水明は心底嫌そうな顔をすると、文車妖妃の話を遮った。すると、コロコロと鈴が転がるような声で笑った文車妖妃は、「あい、すみません」と素直に謝った。


「そんな白い兄さんには、異類婚姻譚。見知らぬ文化に飛び込む主人公なんてお似合い」


 そして次に金目に目を遣ると――すう、と目を細めた。


「そこな兄さんが一番面倒、面倒。ご自分の中ですべてが完結している。浮かべている笑顔はすべてが仮初め。お調子者を装っていても、誰よりもどろりどろどろ。ああ、こわや、こわや。兄さんは誰にも似ていない」


 すると金目は、笑みを湛えたままじっと文車妖妃を見つめた。


「心外だなあ。僕ってそんなにどろどろ~?」

「ま。自覚なし? おお、もっと怖い」


 文車妖妃は髪鬼の胸に顔を埋めると、ちらりと目だけをこちらに向けて言った。


「まあ、わっちの言いたいことはただひとつだけ。ご自分に似た登場人物を捜すこと。そしてその人に心を預けてくんなんし。自分に似ている人なら、誰よりも理解が深くありましょう? そういう本を選べばよいでありんす。わっちもお手伝いしなんす」


 そして近くにあった本棚から一冊の文庫を抜き出すと、それを水明に渡して言った。


「――本選びは自分と向き合うことでありんすよ」

ありんす~~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ