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遠野の山の隠れ家2:養父の行方

 ――翌日。現し世でのアルバイトが終わった私は、幽世に帰るなり、迎えに来てくれていたにゃあさんに尋ねた。


「――東雲さんは⁉」

「お帰りなさい。夏織」


 すると、にゃあさんは三本の尻尾をゆらゆら揺らすと、空色と金色の色違いの瞳を細めて言った。


「帰っているわよ、あの親父」

「本当⁉ 嘘じゃないよね⁉」

「……あたし、滅多に嘘はつかないわよ」

「たまにはするんだ……」

「そりゃあね」


 そしてにゃあさんは、くるりと私にお尻を向けると、体勢を低くして言った。


「……よかったら、あたしに乗っていく?」

「え、いいの⁉」

「ちょっと、夏織に怒られる東雲が見たい気分なの。あたしの親友をないがしろにするなんて、東雲の癖に生意気なのよ」


 そう言うと、にゃあさんはみるみるうちに巨大化した。ミシミシと筋肉と骨が軋む音がして、ただの猫だったにゃあさんが、虎みたいにしなやかで迫力のある姿に変身する。私は、勢いよくその体に抱きつくと、ふわっふわの黒い毛に顔を埋めた。


「にゃあさん、大好き!」

「そういうのはいいから、行くわよ」

「ドライなとこも好き……!」

「しつこいわよ⁉」


 私は、にゃあさんの背に飛び乗ると、思い切りしがみついた。


 私を乗せると、にゃあさんは往来を行き交うあやかしたちの間を縫うように駆けた。

 にゃあさんは恐ろしく速く、周りの景色があっという間に後ろに流れていく。普段なら、私の周りには常に幻光蝶がいるのに、はるか後方に置いてきてしまったくらいだ。道を歩いているあやかしたちが、進行方向を邪魔しないように避けてくれるので、まったくスピードが緩まないせいもあるのだろう。ここ幽世では、あやかしが暴走するなんて日常茶飯事なのだ。これくらいじゃ、誰も驚きすらしない。


「稀人の嬢ちゃん、今日は寄っていかないのかい‼」


 いつも、お魚を買っている魚屋さん――因みに、『ヒョウスベ』という宮崎から熊本の山間部に伝わる河童――が、ものすごい勢いで駆けているのにも拘らず、声をかけてくれた。

 私は、振り落とされないように気をつけながら、ヒョウスベに向かって叫ぶ。


「ごめんね‼ 今、時間がないんだ‼」

「おう、そうか。なら、後で来いよ! 今日はいい川魚が入ったからなあ。ヒッヒッヒ」


 怪しげな笑い声を上げるのが()のヒョウスベの店のお魚は、種類が豊富で美味しい。お魚と言えばここだと普段から決めているくらいには、お世話になっている。私は大きく手を振りながら、後で店に行くと約束をした。


「え、夏織ちゃん。うちも寄ってってよー?」

「秋の新作和菓子、始めたよ! にゃあさんと食べにおいで‼」

「はぁい‼ 絶対に行くから‼」


 舌を噛まないように苦労しながら、あやかしのみんなと挨拶を交わす。すると、程なくして貸本屋の前に到着した。


 にゃあさんが停まるのを待つのすら、もどかしい。ひょいと飛び降りて、少し足をもつれさせながら入り口に手をかけ、勢いよく戸を開ける。すると――店内に、誰かの影を見つけた。


「東雲さん⁉」


 私が声をかけると、その人物は本棚の影からひょっこりと顔を出した。


「おう。おかえり」

「……!」


 それは予想通りに私の養父だった。東雲さんは無精髭を指で撫でると、「久しぶりじゃねぇか?」なんて言って、笑っている。

 

「……帰ってきたんだ」


 その笑顔を見た瞬間、シュルシュルと怒りの感情が萎んでしまった。代わりに、顔がにやけてきて仕方ない。単純に、東雲さんがそこにいるのが嬉しい。


 ……文句くらいは言ってやろう。


 そう思って、軽い足取りで東雲さんに近づく。すると、つま先にコツンと何かが当たって、思わず足を止めた。見ると、そこには山積みの本があった。


「あ、悪いな。散らかしちまって」


 東雲さんは、店の貸し出し帳にいやに真剣な顔で向かい合っていた。毛筆が、すらすらと紙面で躍っている。何を書いているのだろう。不思議に思ってそれを覗き込むと、そこには多くの本のタイトルが並んでいた。貸し出した相手の欄には、東雲さんの名前が書かれている。


「その本、どこかに持っていくの?」

「ああ、そうなんだ。ちょっくら必要になって」

「そうなんだ」


 東雲さんは私に一瞥も暮れずに、貸し出し帳と手元の本のタイトルと睨めっこしている。何となく手持ち無沙汰になった私は、アルバイトに持っていった荷物を片付けることにした。いつもなら、洗濯ものを取り込んだり、夕食の支度を始めたりするのだけど……今日は、なるべく東雲さんと一緒にいたい。


『秋の新作和菓子、始めたよ!』


 そう言えば、のっぺらぼうの奥さんに声をかけて貰ったんだった。のっぺらぼうの奥さんは、幽世の町一番の和菓子店を営んでいる。今は、旬を迎えた秋の果実を使った和菓子が出ているはずだ。


 ――そうだ。ちょうどおやつ時だし……和菓子でも買ってきて、一緒に食べよう。


 そう心に決めると、途端に何だかワクワクしてきた。

 私は急いでお財布を掴むと、母屋と店を繋ぐ引き戸を開けた。その瞬間、目に飛び込んできた光景に、思わず固まってしまった。


「よっこらせっと」


 それはちょうど、東雲さんが大きな風呂敷を背負ったところだった。風呂敷には、大量の本が詰め込まれている。手には、和装に似合わない古びた旅行鞄。手入れが行き届いていないせいか、皮の一部分がひび割れてしまったそれは、東雲さんが長年愛用しているものだ。

 鞄は、見るからに荷物でいっぱいになっていて、唐傘が一本、持ち手部分に括り付けられている。その様子は、どう見たってこれから出かける支度にしか思えなかった。


「……あ」


 私が小さく声を上げると、東雲さんはやっとこちらを見てくれた。

 青灰色の瞳を細めて、目尻に皺をいっぱい作って微笑みを浮かべている。そして、ゆっくりと私の傍に歩いてくると――雑な手付きで、私の頭を撫でた。


「悪いが、また何日か家を空ける。バイトの日は、店は締めていいからな。頼んだ」

「…………」

「最近、任せっきりで悪いな。今度、埋め合わせはするから」


 煙草と体臭が入り混じった匂い。少し苦さを含む慣れ親しんだ匂いが、ふわりと鼻を擽った。東雲さんは、仕上げだと言わんばかりに、ポンポンと頭を二回叩くと、そのまま店を出ていってしまった。


 ――ピシャリ。

 引き戸が閉まる音が、誰もいなくなってしまった店内に響き、そして消えていった。




「それで、うちに来たってわけね」


 ナナシが、少し呆れ気味に私を見つめている。

 薬屋の中庭――秋の花々に彩られた庭の真ん中にあるテーブルの上には、ホカホカのご飯が並んでいる。産卵のために河口付近まで下る習性を利用した、伝統的な「鮎やな」漁で獲られた鮎の塩焼き。今年採れた、ツヤツヤぴかぴかの新米を使った土鍋ごはん。小茄子のお漬物に、ナナシお得意の卵焼き。かぼちゃなどの根菜を使った、具沢山のお味噌汁。デザートには、のっぺらぼうの奥さん特製の柿の羊羹。どれもこれも、とんでもなく美味しそうだ。なのに――……。


「東雲さんの馬鹿」


 気分が最悪のせいで、どうにも食欲がわかない。秋の味覚盛りだくさんのご飯だなんて、食欲を唆って仕方ないだろうに、これはどうしたことだろう。ぐったりとしている私に、自分の皿に乗った、焼き魚の匂いを嗅いでいたにゃあさんが言った。


「そんな状態の癖に、律儀にご近所さんとこで買い物してから来るのが夏織よね。あたしは、ムカついてるなら、さっさと行きましょって言ったのに」

「だって、約束したもの。約束は破ったら駄目じゃない」

「それを教えた当人が、約束を破ってるんだけどね」


 思わず、盛大に顔を顰める。するとにゃあさんは、まだ熱かったらしい焼き魚を、鼻で脇に寄せながら言った。


「まあいいんじゃない。夕食作りたくないから、ここに来たんでしょ」

「……だって、やる気がなくなっちゃったんだもん。ナナシには悪いと思ってる」

「別に、気にしなくてもいいのよ?」

 

 ナナシは、かぼちゃのグラタンをテーブルに置きながら笑った。


「頼ってくれて嬉しいわ。でも、頑張って作ったのに食べて貰えないのは寂しいから、少しでもいいから食べていってね」

「……うん」


 おもむろに、鮎に手を伸ばす。塩が噴いて真っ白になるくらいに焼いた鮎。串を手に持って、お腹の部分に思い切り齧りつく。すると、口いっぱいにパンチのある塩辛さと、肝のほろ苦さが広がった。身はほくほくしていて、それほど身厚くはないけれども、食べごたえがある。そして何よりも肝の苦さ。決して嫌なものじゃなく、それどころか、苦さの奥に甘みを感じるほど、旨みが凝縮した癖になりそうな味だ。あまりの美味しさに、目を細める。


『――ワハハ。やっぱ、ヒョウスベんとこの魚はいいな。酒に合いそうだ』


 その瞬間、東雲さんならこう言うだろうな、なんて妄想をしてしまった。すると、またみるみるうちに気分が落ち込んできた。すると、私の様子を見ていたナナシが、「あらまあ」と苦く笑った。


「今日は、とことん駄目ね。まあ、無理はしなくていいわよ」

「……まったく、本当にお前は東雲のことが好きだな」


 すると、庭にポットを手にした水明が入ってきた。その後ろを、チョコチョコとクロが着いてきている。クロは、にゃあさんを視界に認めると、「キュンッ⁉」と子犬みたいな声を上げて、そろそろと後退し始めた。


「だって、私のお養父(とう)さんだもの」


 クロが逃げ出そうとしているのに気がついたにゃあさんは、おもむろに立ち上がると、クロの後を追った。……あ、部屋の奥から激しい足音が聞こえる。どうやら、激しい追いかけっこが始まったようだ。


「……そうか? 普通、お前くらいの年頃なら、父親とは距離を置くものだろう」


 水明は、クロのことを気にしながらも、話を続けた。中国茶を淹れる手付きが、随分と熟れている。それは、水明がこの家に馴染んできた証拠だ。


「……普通って何だろうね」

「さあな。俺も普通の生活はしてこなかったから、正直わからんが」


 水明はそう言うと、私の前に茶器を置いた。そのあまりの香りのよさに、思わずまじまじと中身を覗き込む。すると、水明がそのお茶の正体を教えてくれた。

 

「青茶……所謂、烏龍茶だ。気分が落ち着くし、食欲不振にもいい」

「え。私が知ってる烏龍茶と全然香りが違うよ⁉ 普段飲んでるのと比べると、こっちのが力強くて鼻の奥がスッとするみたいな感じ」

「そんな市販品と一緒にしないでくれ。ちゃんといい茶葉を使ってる」


 感心しつつも、烏龍茶を口にする。すると、途端に芳しい香りが口一杯に広がって、ほうと息を吐いた。温かな烏龍茶が喉を通り過ぎていくと、それだけで安心する。


「……うん。美味しい。ありがとう、水明」

「フン」


 私は、照れくさそうにそっぽを向いてしまった水明に苦笑すると、ふたりに向かって軽く頭を下げた。


「色々と気を遣ってくれてありがとう。確かに、ちょっと落ち込み過ぎだよね。他の人から見たら、たかが(、、、)義理の父親が頻繁に家にいないだけなのにさ」


 すると、私の隣の椅子に腰掛けたナナシが「何を言ってるのよ」と眉を顰めた。


「夏織にとって、あのぼんくらが大切な存在なのは理解してるわ。だから、そういう風に言わないの」

「……ごめん。つい」


 私は、茶器の中でゆらゆら揺れている水面を見つめながら話を続けた。


「今回のことで、何となく自分の『子どもっぽさ』を実感しちゃってさ。水明にも言われたことあるでしょ? 行動が年相応じゃないって。本当にそうだなあって思ってさ」

「子どもっぽさ?」

「うん――私、東雲さんに依存し過ぎかなって」


 もし、私が一般的な家庭に生まれていたのなら、二十歳にもなってこれほど父親にべったりなのは、珍しい部類に入るだろう。それも、本当の父親じゃない。義理の父親だ。


「父親が頻繁に家を空けるからって、普通の人はこんなに動揺しないよ。多分、その原因は、私がまだ子どもだからなんだと思う」


 アルバイト先で、同年代の子と話すこともあるけれど、みんなどこか大人びていて、私とは全然違った。彼女たちは、親元から早く離れたいとか、ひとり立ちしていることを、誇っているような趣さえあった。


「大人にならなくちゃって、現し世の女の子たちは、みんな頑張ってるんだよね。親にいつまでも頼りきりじゃ駄目だよね……」


 むしろ、親を邪魔に思っているような口ぶりの人もいた。そういう人に話題を振られても、まったく共感できなかった私は、曖昧に笑って誤魔化すしかできなかった。

 

 私は、本当に東雲さんのことを大切に思っている。

 この世界では異物である人間の私を、ここまで育ててくれたのは東雲さんだ。けれど、年齢的に離れなくちゃいけない時期に来ているのではないか、とも思うのだ。子どもが父親と手を繋いでいるのは微笑ましい。けれど、いい年をした娘が、父親と手を繋いでいたら――奇異の目で見られるのではないか?


 東雲さんの「本当の娘」になりたい。

 私がずっと抱いてきた夢は、もう見てはいけない夢なんじゃないだろうか?

 そんな夢を抱くには、私は大きくなりすぎたんじゃないだろうか。


 チクリ。胸の奥が痛む。胸の奥に、深く、深く突き刺さった棘は、私を苦しめ続けている。


「……ッ、ふ、ふふふふ……馬鹿ね? そんなことで悩んでたの?」

「え……」


 すると、ナナシが笑い出した。心底おかしそうに、お腹を押さえて肩を震わせている。私は、その笑いをどう受け止めたらいいかわからず、思わず水明に視線を向けた。すると、水明まで、やれやれと呆れきった目で私を見ているではないか。


「あの言葉は、前に否定したと思うんだが? お前は、ちゃんと年相応に大人だ」

「そうそう。自分を子どもっぽいって思っているのは本人だけってね。まあ……確かに、現し世の女の子たちに比べると、無邪気かもしれないけれどね」


 ナナシは、琥珀色の瞳を細めると、酷く優しげな笑みを浮かべた。


「現し世ってね、幽世に比べると随分と世知辛いのよ。大人じゃなきゃできないことも多いし、しっかりしないと競争に負けてしまう。だからみんな、急いで大人になりたがる。幽世だって、決して優しい世界じゃないけれどね。でも――現し世みたいに考えなくてもいいんじゃないかしら」


 だからね――と、ナナシは笑って言った。


「ゆっくりでいいのよ。ただでさえ人間の変化は早くて、アタシたちからすれば瞬く間なのに。人間は変化する生き物だから、そう思っちゃうんでしょうけれど、幽世って場所は『停滞と緩やかな変化』を好むのよ。だから、ゆっくり変化していって。それでもって、できれば……長く、長くアタシたちの傍にいてね」

「……うん」


 すると、ナナシの言葉に水明も続いた。


「お前は、体は人間だが、心はあやかしなんだろう? そういう風に自己紹介したじゃないか。……さっきは悪かったな。『普通』なんて、安易に使うべきじゃなかった。お前は、自分を人間と同列に比べることはないと思う。そもそも、ここは何もかもが現し世とは違う。俺が言うのも何だが……同じである必要はないんじゃないか。お前は、お前だ」

「……そう、なのかな」


 ……何だか、泣きたくなってきた。

 私は、私らしくあればいい。まだ……東雲さんの娘になることを夢見てもいいのかな。東雲さんを好きなままでいいのかな。でも、それをしてしまうと、いつまで経っても成長しない気がする。成長していかなければ、私は「何者」にもなれないんじゃないか……そんな気がしてならないのだ。


 ふたりに気付かれないように、こっそりとため息をつく。

――するとまた、胸の奥がチクリと痛んだ。




 それから、三人と二匹で穏やかに夕食を食べた。

 正直、東雲さんのことは気にならないわけではないけれど、ウジウジ思い悩むのは止めにすることにした。まだ、正直すっきりはしていない。けれども、ひとつのことをいつまでも悩めるほど、後ろ向きな性格でもない。なので、とりあえずは頭の隅に置いておくことにした。


 少々遅くなってしまったので、後片付けを水明とクロのふたりに任せて帰路につく。

 すると、見送りに来てくれたナナシに、最後の確認をした。


「……本当に、ナナシは東雲さんがどこに行ったのかは知らないのね?」

「そうね。何をしようとしているかは知っているけれど、行き先は知らない」

「何をしようとしているのかも、教えられない?」

「内緒にしてくれって、アイツに頼まれたからね」


 ナナシの笑顔に、唇を尖らせる。私の足もとにいるにゃあさんも、「ケチね」なんて言って、不満そうだ。すると、ナナシはころころ笑いながら言った。


「本人から聞いた方がいいわ。その方が、きっと感動するでしょうし」

「……?」

「ねえ、本当に何をやろうとしてるわけ? あのぼんくら」

「ごめんなさいね。アタシからは言えない。口が硬いのが薬屋なのだもの。ここで漏らしたたら、家業の信用問題に拘るわ」

 

 ……そんなに、重要な隠しごとなのだろうか。

 にゃあさんとふたり、首を傾げていると――ナナシは、私の背後に何かを見つけたのか、目をキラリと光らせた。


「――あら、ちょうどいい。口が軽いのが仕事みたいな奴がいる」


 そして、ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべた。


アレ(、、)に聞きなさい。寧ろ、アレも首謀者のひとりよ。アタシ、もう可愛い夏織に隠し事をしたくないわ。胸が痛くて張り裂けそう‼ だから、押し付けちゃいましょ。ねえ、にゃあ?」

「なによ」

「あの男を――捕まえなさい‼」

「……夏織のためなら、仕方ないわね」


 すると、にゃあさんがどこかに向かって駆け出した。走りながら、徐々に巨大化していったにゃあさんは、往来を歩いていたある人物に追いつくと――そのまま組み伏せた。


「うわああああああああっ⁉」

「――にゃあさん⁉ いきなり何を……って、あ‼」


 小走りでにゃあさんに追いつく。すると、にゃあさんの巨大な足の下に、やけに派手な羽織が下敷きになっているのが見えた。その人は、しばらくにゃあさんの足の下でジタバタと足掻いていたかと思うと――諦めたかのように四肢の力を抜いて言った。


「俺を食べても、美味くはないと思いますぜ? 猫の姐さん」


 それは、見るからに怪しい風体をした「物語屋」――。

 東雲さんの古くからの友人、玉樹さんだった。


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