物語が始まった島、救世主と親子と1
さわさわと木々が風に鳴いている。
青々とした緑溢れる鞍馬山、苔むした庵にぐったりと座り込んだ東雲のもとへ、とある人物が訪れた。山奥に似つかわしくないド派手な羽織を着たその男は玉樹である。
「――よう、はるばる山奥までよく来たな。親友」
「――フン。やはり駄目だったか。親友」
どかりと東雲の隣に座り込んだ玉樹は、どこか疲れ切った様子の東雲に酒瓶を差し出す。
しかし東雲はそれを断ると、不貞腐れたように唇を尖らせた。
「白蔵主の奴、ちっとも俺の話を聞きやがらねえ。貸本屋を潰してやるって、意気揚々と出て行きやがったぜ。まったく、了簡が狭えな~。この数日のやり取りが無駄になった」
「娘のこととなると視野が狭くなるのは、お前も覚えがあるだろう」
「うるせえ。俺はあんなに頑固じゃねえよ」
「どの口がそれを言う」
クツクツ笑い合って、すぐに無言になる。
「で、お前の仕込んだアレコレは上手く行きそうなのかよ?」
東雲の言葉に玉樹はピクリと片眉を上げれば、小さく笑みをこぼした。
「……いつから気がついていた?」
「最初からだよ。ちょうどお前がいる時に白蔵主が押し入って来たんだぞ。涼しい顔して俺を諭しやがって。柄じゃねえだろう。違和感しかなかった」
「すべて承知の上で、白蔵主をここに足止めしてくれていたと?」
「いや……実際、白蔵主の主張にムカついたのもあるけどよ。現実と創作をごっちゃにするような奴は絶対に赦さねえ。性根を叩き直してやろうと思っただけだ」
「夏織の父親だな。あの娘も、似たようなことを言っていた」
「ハハッ! そうだろ。俺が育てたんだからな。娘ってもんは父親に似るもんだ」
白い歯を見せて笑った東雲は、ちらりと玉樹を横目で見て言った。
「親ってもんは子を守るためなら、なりふり構わねえもんだぜ。なにもそれは、俺や白蔵主だけじゃねえ。そういうことだよな? 玉樹」
「…………」
「本当に狸やら狐ってもんは食えねえ奴らばっかりだ。うちを巻き込みやがって。全部終わったら、休業中の売り上げを補填してもらうからな」
「……それぐらいはさせるさ」
ポツリと返した玉樹に、東雲はボリボリと頭を掻いた。
「夏織やうちの店を巻き込むのはこれっきりにしろよ。次は――どうなるかわかんねえし」
「…………。ああ」
玉樹はちらりと東雲の様子を横目で見た。
「具合はどうだ」
「……別に、変わんねえよ」
「そうか」
玉樹はそれだけを訊ねると、さっさと立ち上がった。
「おい、酒は持って帰れよ」
「荷物になる。僧正坊にでも飲ませておけ」
「おいおい……」
呆れたような声を出した東雲を置いて、ゆっくりとその場を後にする。そんな玉樹の背に向かって、東雲は声をかけた。
「お前の永遠はもうすぐ終わりそうかよ?」
玉樹は顔だけ振り返れば、長年の親友に向かって言った。
「――終わらせるさ」
***
その日は風が穏やかな日だった。
太陽は水平線の向こうに顔を隠したばかり。暗い海からはざあざあと波音だけが聞こえてくる。日中よりは少し冷えた空気、人気のなくなった漁港を横目で見ながら、埠頭に立った私は手紙の鶴を放つ。
ふわりと薄闇に包まれた空へ鶴が飛んでいく。
水明もこの島にいるはずだから、そう時間はかからずに届くはずだ。
――玉藻前に協力の約束を取り付けた翌日。私たちは淡路島にやって来ていた。
栃木県から兵庫県への移動だ。地獄経由で時間が短縮できているとはいえ、かなりの強行軍である。しかしそうも言っていられない。淡路島は月子の父、芝右衛門狸の棲み家だ。彼は白蔵主とは古い知り合いで、「兵隊を貸してくれ」と要請があったそうだ。
つまり、貸本屋を襲撃する前に白蔵主は必ずここへ立ち寄るのだ。
芝右衛門狸はここですべての決着を着けると決めたらしい。
昨日、報せをもらった私たちは、すぐさま栃木県を出発した。
早朝に淡路島へ到着した後、今の今まで作戦会議をしていたのである。
苛烈な意見を押し通そうとする玉藻前を諫めるのは大変だったけれど、なんとか意見を纏めることができた。あとは実行に移すだけだ。
怒りに染まった白蔵主は、貸本屋を潰し、娘の恋を諦めさせようとしている。
あんまりにも理不尽だ。そんなことは絶対にさせない。
――でも、大丈夫かな。
朝から練り上げた作戦のこともそうだったが、私にはもうひとつ不安なことがあった。
水明の手紙をそっと胸に抱く。先ほど飛ばしたのはその返事だ。
それは玉藻前の屋敷で水明が書いたものだった。あの日は結局会えずじまいで、水明はその日の出来事を手紙に書いて送ってくれたのだ。近くにいたからか、それはすぐに私の手もとに届いた。中には、玉藻前の屋敷で見たことがつぶさに書かれている。主に孤ノ葉と月子のやり取りだったのだが、どうにも気になる箇所があった。
「新美南吉……」
手紙に出てきた作家名を口にすれば、胸の奥がざわついた。
鞄から玉樹さんがくれた資料を取り出す。そこには月子の情報も詳しく書いてあった。
うちの店では、古くなったり回転率が悪くなった本を客に払い下げることがある。
月子は、新美南吉の童話集をうちから買っていたらしい。それ以前にも、何度も同じ本を借りている履歴が残っていた。きっと思い入れのある話なのだろう。
その物語は、日本人であれば一度は触れたことがあるであろうものだ。
教科書に載るほどの有名作品。それが一体どんな意味を持つのだというのだろう。
その内容に想いを馳せれば、胸がちくりと痛んだ。
水明によると、月子は孤ノ葉の恋を諦めさせようと妖術をかけようとしていたらしい。
あのタイミングで孤ノ葉が恋を諦めると宣言していたら、きっと彼女の立場が悪くなっていたに違いない。親友なのに、どうしてそんなことを……?
それと同時に、水明がもたらした情報は私の中の疑念を確信へと変えた。
「……きっと人魚の肉売りと接触しているのは、月子だ」
ぽつりと呟いて、ひとりじゃ呑み込めきれない状況にそっと瞼を閉じる。
――ねえ、水明。これってどういうことだと思う?
心の中で問いかけてみても、当然、返事は返ってこない。
当の水明は玉樹さんと一緒に別行動をしていて、同じ場所にいるというのに顔すら見れていない。神様はなんて意地悪なんだろう。なかなか私たちを会わせてくれない。
その時だ。誰かに肩を叩かれて飛び上がりそうなほどに驚いてしまった。
「ひっ……! って、ナナシ」
「思い詰めた顔で昏い海を眺めないの。どうしたのかと思ったわよ」
「アハハハ。心配させちゃった? ごめんごめん」
「……ねえ、無理に笑わなくていいのよ。アンタ、なにか悩んでるでしょう」
その言葉にポカンと固まってしまった。けれど、すぐに顔をクシャクシャにして笑う。
ああもう! ナナシに隠し事はできないなあ……。
「……正解。誰にも話さずにこっそり悩んでたの」
ナナシは私の隣に立つと、優しげに目を細めて言った。
「話してみなさい。ちゃんと受け止めてあげるから」
本当に温かく、頼もしい言葉だ。私は意を決して、自分の考えを口にする。
「ねえ、ナナシ。月子が人魚の肉売りが接触している相手で合っている?」
否定して欲しい。そんな願いを込めて訊ねるも、ナナシは神妙な顔つきで頷いた。
「というか、アンタ……もしかして孤ノ葉だって思っていた? 誤解させちゃったわね」
「ううん、いいの。私が勝手に勘違いしてただけだから。あのふたりだったら、孤ノ葉の方が目に見える悩みを抱えていたしね……」
そっと、静まり返った港へ視線を移せば、ぽつねんと孤ノ葉が海を眺めていた。
父親と直接対決が待っている。不安で仕方がないのだろう。物憂げな表情は苦しげだ。
――あんな顔をしているのは、それだけが理由じゃないとは思うけど……。
孤ノ葉と月子は、いまだ仲直りをしていないようだった。正念場の前に、ずっと頼りにしていた親友と仲違いしている事実。それが孤ノ葉を更に追い詰めているように思う。
もしも――今の孤ノ葉の状況でさえ、月子が計画していたものだったら……?
嫌な予感がよぎった私は、堪らずナナシに問いかけた。
「ねえ、月子は友だちを追い詰めてなにをするつもりだと思う? 友だち想いの子だと思っていたのに、あの子をそうさせているのは……なに?」
「そりゃァ人魚の肉売りの野郎が関係しているに決まってんだろ?」
どこか飄々とした声にハッと振り返れば、そこには芝右衛門狸の姿があった。
「月子のことがバレちまったなら仕方がねえ。……悪いな。娘のことが放って置けなくて、お前さんを利用しちまった、謝る」
「……利用? 私をですか?」
「ああ。実はなァ、今回の件にはオレと玉樹が噛んでるのさ」
「玉樹さんも?」
――もしかして、これが玉樹さんの〝企み〟……?
すると、苦み走った表情をした芝右衛門狸は無精髭を撫でながら言った。
「数ヶ月前くらいかねェ。娘が変なことをしてるのに気がついた。大量の鈴を買ったり、頻繁に幽世と現し世を行き来してやがる。どうしたもんだと悩んでいたら、物語屋の野郎が来たんだ。娘から人魚の肉売りの臭いがするってなァ」
初めは不審者だと追い払ったらしい。それはそうだ、年頃の娘の臭いだのなんだのと言われて、気持ち悪く思わない親はいないだろう。
「まァ……何度も何度もくるもんだから、一応は裏取りをしてみた。そうしたら……確かに、娘が人魚の肉売りらしき誰かと会っている痕跡があった。正直、ゾッとしたぜ? 人魚の肉なんてよくわかんねえ代物を、娘が口にするかもなんて思ったらよ」
しかし、芝右衛門狸が気づいた時には事態はすでに動き出していたそうだ。
「年頃の娘だ。どう話を聞こうかと考えあぐねていたところに、白蔵主が貸本屋を襲おうとしてるって話が聞こえてきてなァ。月子め、どうもこのために画策していたようだ」
「月子が……? どうしてそう思うんです?」
「なあ、貸本屋の娘。思い出してもみろ。そもそもの事件のきっかけは、孤ノ葉が現し世に興味を持ったことだろう。きっかけになった本……確かにそれは、貸本屋の所蔵物だったかもしれねェが、その本を孤ノ葉に貸したのは誰だ?」
「つ、月子だったような?」
――孤ノ葉が彼氏との馴れ初めを語ってくれた時、そんなことを言っていた気がする。
その瞬間、あることに気がついて血の気が引いていった。
「……待って! 月子は、わざと孤ノ葉が現し世に興味を持つように仕向けたの? どうしてそんなこと……!」
「ンなこと、オレが聞きてェよ。仕方ねえから、慌てて貸本屋に駆けつけたんだ。玉樹と下手な芝居を打って、白蔵主を東雲に足止めさせてよォ。協力者を集めがてら、月子を玉樹に監視させて、オレは娘の目的を探ってた。だがなァ、いまだに目的がわからねェ」
孤ノ葉に現し世へ興味を持つように焚きつけ、恋人との恋路を応援したり、邪魔したり。
その行動はとても一貫性があるとは言えない。
「まあ、あの年頃の娘は、なに考えてるかわかんねえからなァ! ワハハ!」
「わ、笑い事じゃないと思うんですけど……!? どうするんですか、これから……!」
思わず抗議の声を上げれば、芝右衛門狸は恰幅のいい体を小さく丸めて言った。
「……いや、悪いとは思ってる。オレが親としてしっかり見ていなかったせいだ。すまん、せっかく月子と仲良くしてくれたってのに、こんなことになっちまって」
「え……?」
「アイツはなァ。本当に不器用な奴なんだ。なにをするにも、普通の奴よりも時間がかかるようなタイプで、一時……心を病んで閉じ籠もっていたことがある」
「そう、なんですか」
「へへっ。親としてはもどかしいやな。でも、そんなアイツの心を解してくれたのが孤ノ葉でよ。それ以来、仲良くしてもらってる。だが、孤ノ葉以外の友だちがちっともできなくてよ。お前さんを巻き込んだのは、年が近い娘なら、なにかわかるかもと思ったからなんだが……。正直、仲良くしてるって聞いて、びっくり仰天したんだぜ、オレは」
「――月子!」
すると、どこか嬉しそうな孤ノ葉の声が聞こえた。
ハッとして振り返れば、孤ノ葉のそばに、今まで姿を見せなかった月子がいた。
「孤ノ葉、遅れてごめん」
「いいの、来てくれただけで嬉しい。あの……この間はごめんね。私、月子がいないとやっぱり駄目だわ。不安で不安で……」
月子は穏やかに笑うと、孤ノ葉の手を取って頷いた。
「わたくしが来たから、もう大丈夫」
「……ああ! 百人力だわ。月子がそばにいてくれると、すべてが上手く行く。問題なんてあっという間に解決する気がするの……」
心の底から嬉しそうな孤ノ葉に、月子はにっこりと笑いかけている。
――すべてが上手く行く、か……。
けれど、問題を起こそうとしているのはその月子自身だ。彼女の瞳の奥に、どうにも得体の知れないなにかが潜んでいる気がして、ゾッとした。
「――なァ、お前さん」
すると、どこか思い詰めたような声で芝右衛門狸が言った。
「うちの娘が迷惑をかけてるのはよくわかってる。だがよォ、もしアンタがよかったら、今回の件が終わってからも、娘と仲良くしてやってくれねェか……」
口籠もりつつも言った芝右衛門狸の表情には、どこか寂しさと……必死さが滲んでいた。
「この後も、人生ってもんは続いていくんだ。一緒に歩ける相手は、多いほどいいだろ? 厚かましい申し出だとは思うが……」
――ああ。彼は、心の底から月子のことを案じている。
「まったく。アンタ、ちょっぴり過保護じゃない?」
ナナシがクスクス笑って言えば、芝右衛門狸は照れたように視線を逸らした。
「茶化すんじゃァねえよ。オレだってなァ、全部が思い通りにいかなくて悩んでるんだ。可愛い娘のためなら、なんだってやる。それが男親の仕事ってもんだろ」
……東雲さんも、そんな気持ちなのかなあ。
日本三大狸のひとりといえど、彼も普通の父親なのだ。
――うん。なんだか東雲さんに会いたくなってきた。なら――答えはひとつだろう。
「もちろんです。月子が、私がそばにいることを許してくれるなら」
大きく頷く。すると芝右衛門狸は嬉しそうにはにかんだ。
「ありがてェ。さすがは東雲の娘だ。肝が据わってらァ」
そして、再びポポンと腹包みを打てば、ナナシにちろりと目配せをして言った。
「月子の目的はよくわからねェ。わからねェが……どうも、月子は孤ノ葉に執着しているようだ。きっと、孤ノ葉の件を解決できたらアイツの本心もわかると思ってる。だからよ、とりあえずは白蔵主のことを解決するのに注力してくれや。あれもオレと同じ父親だ」
そして踵を返すと、ひらひら手を振って言った。
「――貸本屋の娘、頼んだぜ」
「はっ……はい!」
勢いよく頷くと、芝右衛門狸は満足そうに玉藻前たちの方へと歩いて行く。
その様子を眺めながら、私はぽつりと言った。
「私って鈍いなあ。何日も一緒にいたのに、月子が抱えているものを感じ取れなかった」
人魚の肉なんてものに頼ろうとするくらいだ。
きっと、あの子が心の内に抱えている〝秘めごと〟は重く、大きいのだろう。
どうして月子は人魚の肉に頼ろうとしているのだろう? どうして、まだ肉を食べないでいるの? もしかして、人魚の肉に頼らなくてもいいように足掻いている?
……だったらいいな。
でも、私は彼女を救えるだろうか。
「ねえ、ナナシ。私じゃあみんなを助けられないかな?」
問題が多すぎて、私の手にあまる予感しかしない。
「みんなと違って、私はただの人間だよ。なんの特別な力も持たない。でも、白蔵主も孤ノ葉も……月子も。みんなが幸せになるようにって行動するのは、分不相応かな……?」
思わず不安をこぼせば、ナナシはにっこり笑った。
「自分の〝器〟じゃ無理そうって? 馬鹿ね、なんでも工夫次第よ」
そう言って、私の両手を持って輪を作る。
「これがひとりの器。夏織が一度に助けられるのは、きっとひとりくらいだわ」
あまりにも小さい輪に心が痛む。するとナナシは続けた。
「でも、こうすれば――」
ナナシは、おもむろに私と両手を繋いだ。ふたりの腕で大きな輪を作る。
「もっともっとたくさんの人を受け入れられる。ね? そうでしょう?」
そこに現れたのは、人間なら四人ほど受け入れられそうな輪だ。
「夏織はひとりじゃない。アタシに玉樹、芝右衛門狸……水明だっている。みんながいれば多くのことを成し遂げられる。誰も救えないって泣いていた頃のアタシと、アンタは違う。〝器〟が大きい人っていうのはね、手を繋ぐ相手がたくさんいる人のことを言うんだわ」
その温かい言葉に、きゅうと胸が締めつけられるようになった。
「……ナナシ、ギュッてしていい?」
無言のまま両腕を開いたナナシに、私は勢いよく抱きつく。
「ありがとう。大好き」
「アタシもよ」
ナナシは本当に優しい。そして、時に厳しい。
いつだって私の道を指し示してくれる。
だからこそ、その期待に応えなくちゃ。私は私にやれることを頑張ろう!
――大丈夫。きっとなんとかしてみせる。
ひとり気合いを入れていれば、ナナシは私の頭を撫でながら言った。
「それに今回のことは、アタシも思うところがあるのよ。家族ってものを勘違いしている白蔵主の野郎に、アタシもガツンと言ってやろうと思って」
そして、決意の籠もった瞳を空に向ける。
「……二百年以上。アタシが家族を作るまでにかけた時間よ。それだけアタシは慎重だった。だって失敗するわけにはいかないもの。そんなアタシだから言えることがあるはず」
最後にナナシは悪戯っぽく笑むと、パチリと片目を瞑って言った。
「それに、早く夏織と水明を会わせてあげたいしね。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえっていうじゃない?」
「なっ……なに言ってるの!」
思わず顔を赤くすれば、ナナシはクスクス楽しげに笑って――ポツリと言った。
「アタシは大勢を救うことを諦めた。でも、手の届く範囲にいる相手には手を差し伸べてあげたいの。一緒に頑張りましょう」
ナナシの言葉に胸が熱くなるのを感じながら、私は大きく頷いたのだった。




