表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の使い  作者: 西瓜
7/13

第5話 予兆

 ウッドウルフたちと別れてからすぐに、シルフィは何者かに後をつけられていたが、その正体はあらかた予想できていた。


 傷だらけの親ウルフの感情が私に流れ込んできた時、畏敬の感情の他に恐怖の感情があった。


 加えて、全身に負ったまだ新しい傷。


 これらのことを考えれば、何者かが何らかの目的でウッドウルフたちを襲ったのは分かっていた。


 だが、シルフィがあの家族を救ったことでその計画を無駄にしてしまったことへの報復といったところだろう。


 開けた場所に出ると、シルフィは頃合いだろうと思い追跡者に呼びかける。


「何者だ! なぜつきまとう!」


 シルフィが大事で叫ぶと、後ろの木の影から殺気を剥き出しながら大柄な男が姿を現し、近づいてくる。


 顔は青白く、生気を感じさせない不気味さを身体から漂わせていた。


「気配に気づいてたのかぁ……綺麗な顔してるわりには獣みたいだなぁ姉ちゃん」


 男は薄ら笑いを浮かべながら、眼を大きく見開く。


「なぜあとを付ける?」


「わかってんだろぉ?お前があのオオカミを助けなきゃ、今頃俺はあいつらの死体を王国で売り捌いて大金を手にする予定だったんだよ!」


「確かにウッドウルフの体から生える花は貴重で高価な物だが、殺して取ることは禁止されているはずだろう?」


「んなこたぁバレなきゃいいんだよ! あんまり生意気な口効いてっと殺すぞ?」


 男は興奮のあまり、近くにある木を殴りつけ粉々にしてしまう。


「……痛いのは嫌いなんだ、丸く収めて貰えないか?」


「なら金と食料を寄越せ、それなら考えてやるよ」


「それで水流してくれるなら受け入れよう」


 男の殺気は静まるどころか、どんどん高まりいまにも襲いかかりそうな様子である。


  シルフィは気にせず袋から食料を取り出そうとした時だった。


 男は背にかけていた棍棒を両手で持ち、渾身の力で振り下ろす。


 凄まじい風圧とともに繰り出された一撃によってその一帯の地面には亀裂が走り、大きな穴が空く。


 砂埃が舞い、近くに生えていた草花は消し飛び、シルフィの姿は消えていた。


 獲物を仕留めたと確信したのか男の口角が異常な程に上がり、不敵な笑みを浮かべる。


「んふふ……殺したぁ……殺したァ、ころしたぁコロシタァ、ウェヒヒイヒヒヒヒ、コロシタコロシタコロシタコロ……ガァァ!?」


 男が奇声を上げながら悦楽に浸っていると、右肩と両足に激痛が走った。


 驚いて見ると、両足にはナイフが二本刺さっており力が全く入らない。


 また、右肩は肩口を大きく切り裂かれており腕は動きそうにない。


 さらに、気付けば周りには煙幕が焚かれており男は突然の事態に混乱してしまう。


 男は何者かが正面から急接近してくるのを感じ取り、我に返る。


 そして男は、ようやくその姿を捉え、気づいた。


 自分をここまで追い詰めたのは先程、殺したはずの女だということを。


 煙の中から飛び出したシルフィは目にも止まらぬ速さで何かを男の顔に投げつける。


 男はかろうじて左腕で顔を庇うが一瞬、焼けるような痛みを感じた後左腕の感覚が無くなった。


「シャアァァァァァッッ!!!」


 追い詰められた男は無理やり右腕を動かし、シルフィの体を砕こうとする。


 しかし、シルフィは軽々と腕を潜り抜け、男の腹にに肘をめり込ませる。


 強烈な一撃に男は思わず腹を押さえる、その隙にシルフィは男の右耳をめがけて、重い蹴りをいれる。


 男がよろけると、シルフィは大きく後ろに跳びながら、狙いを定めて男の足元に意識を集中させる。


 すると、男の足元から風が巻き起こり、男の身体を切り刻む。


 風が消え、男が大木のように倒れるのを見届けると、シルフィは男に近づく。


 しかし、シルフィが男の身体に触れる寸前、男の身体はビクッと震えて破裂し、黒い塵となって消えてしまう。


「なっ……! ………あ?」


 男が持っていた棍棒と数本の短刀、そして大量の血だけがそこに残されており、シルフィは何故かまた、血から目を離すことはできなかった。


 突如、目の前が赤黒く染まっていき、身体に異変が起こっている事に気がつく。


 身体の自由は効くが、別人として生まれ変わったような気分だった。


 彼女は血を手ですくい上げると愛でるように飲み干した。


 衣服を脱ぎ捨て本能のままに、血を顔に塗りたくり、肩に、腕に、胸に、足に馴染ませ、狂ったように踊り出す。


 虚ろな目で空を見上げ、血まみれで踊り狂い、乾いた笑いを浮かべる彼女は、さながら壊れた人形のようであった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ