第9話 職人
「ふんふーん♪ふふふーん♪」
上機嫌で歩くシルフィ。
東区へと入りボンとバンの店を目指すが、ふと手に違和感を感じる。
立ち止まり手のひらを見てみると掌底の辺りから、小さな赤い突起のようなものが出ている。
「なんだこれ……?」
触っていると何かが手に集まるのを感じる。
「っ……熱っ!」
赤い突起からは白いゲル状の固形物が出てきた。
出終わると、突起は萎み、身体の中に消えていった。
「い、今のは……!?」
自分の身体の行動の理解についていけずその場に固まってしまうが、シルフィはあることに気がつく。
「酔いが冷めてる……」
身体がアルコールを不必要だと認識して体外に流出させた野だろうか。
「まぁ、酒にはめっぽう弱いからたすかったかな……?」
今度同じ症状が出たらじっくり観察してみなければと心に決め、バンとボンの店に向かう。
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「えーと……芸術的なセンスってのはよくわかんないな」
バンとボンの店は探し始めてすぐに見つけることができた。
なぜなら、店の前にボンとバンによく似た石で造られた2人の等身大が並んでいて、しかも妙に頭を強調してある。
「とりあえず中を見せてもらおうかな」
頑丈に固められた鉄製のドアの取っ手部分に手をかける。
「つるんっ、ぴかっ!」
ドアから変な音が鳴る
「ん?」
突如、ドアが後ろに倒れる。
「うわっ」
ハンドルを掴んだままだったのでシルフィはそのまま巻き込まれ、倒れ込んでしまう。
「ん……? おお! ルフェールじゃないか」
ボンの声が聞こえる。
「何やってんだよ〜そんなとこで」
バンがひょっこり顔を出す。
「いや、違っ……はぁ、なんでもない、約束通り店を見に来たんだ」
「おお! じゃあこっちに来てみな!イイもん作ってやるよ」
バンに誘導させられ椅子に腰掛ける。
「作る……?鍛冶屋なのか?」
「んーまぁそんなもんかな、あ、聞いておくけど今してみたいことてなんだ?」
「してみたいこと?……空を飛んでみたいな」
シルフィは冗談めかしていう。
「空を飛ぶ…か、よし任せとけ」
そういってバンとボンは何かの作業に取り掛かる。
「……え?! 可能なのか!?」
程なくして、羽の紋様がついた布切れを渡される。
「これは?」
「まぁ、強く握ってみてくれ」
言われた通りに強く握ると、どういう仕組みか身体が座っている体勢のまま宙に浮く。
「おお…!」
しかし、数十秒程で効果が切れたのか、身体は落下し、再度、椅子に腰掛ける。
「すぐに効果が切れちゃうのか」
「いや、お試し用だからな、商品として出してるのは五分くらい持つのもあるし素材によってはその倍もできるぜ」
「しかし、凄いな! アルケミストとかの部類か?」
私の問いにバンが答える
「んーそれも違うかな、俺達はエンチャンターみたいなもんかな」
ボンが続けて説明する
「俺達は素材の性能を極限まで引き出すための修行を積んできたんだ、素材から抽出した魔力で器となる物に効果を付与するんだ」
初めて聞くことばかりでシルフィは興味をかきたてられる。
「他にもどんなのがあるのか見せてもらっていいか?」
「あぁ、いいぜ! そんじゃ準備に取り掛かるから待っててくれ」
ボンとバンは棚から多種多様な石と羽を取り出し、金槌で叩き始める。
シルフィはその一定のリズムで叩かれる音が心地よく、ついつい、まどろみはじめてしまう。
金属がぶつかる音によってなのか、彼女の意識は遠くへ飛ばされてしまうのだった。