2.だれか俺たちを助けてくれ!!
『愚かなプレイヤーたちよ、踊りなさい。私の作ったこのデスゲームの中で!』
新宿の街頭モニタがふいに暗転し、ドミ子の甲高い声が雑踏を貫いた。
行き交う人々が足を止めた。老若男女貴賤忙閑を問わず、だれもかれもが足を止めた。
その日、その瞬間、ネットワーク上に存在するあらゆる映像媒体が何者かにジャックされた。
『ガイアクラフトは生まれ変わった』
動画配信サイトで映画を楽しんでいた男性は、不自然に切り替わった映像に首をかしげた。
『この世界での死は現実での死を意味する! あなたたちの運命はもはや私の掌上……逃れることも抗うこともできない』
ジャックされたテレビから流れ続けるドミ子の声が、家族団らんに水を差した。
『助かる方法はただひとつ――全てのプレイヤーを殺害せよ!』
絶叫とともに雷鳴が走った。赤いローブに身を包んだドミ子の姿が明らかになり、さらにその背後にはいくつもの巨大な影――赤黒く染まった不吉な空の向こうで、見目おぞましい悪魔が群をなした。ドミ子は両手を広げ、甲高い笑い声をあげた。
『――ふざけるな!』
突然、画面中央に棍棒を握った腕が突き出されドミ子の姿をさえぎった。
『俺たちはこんなゲームには絶対に屈しない!』
カメラが引き、悪魔の群に立ちむかうゲンタの姿を映し出した。
『俺たちは力を合わせて必ず生きてここから帰ってやる、お前の思う通りにはならない!』
『面白い、やってみるがいいわ。ただし敵はプレイヤーだけではないことを覚えておくことね!』
ドミ子の合図とともに悪魔の口から火炎がほとばしった。
『ぐわあああああああ!』
凄まじい絶叫とともに画面が赤一色に染まった。
『大丈夫かギンタ! 双子だから俺と声のよく似たギンタ!』『双子の兄さん……弟であるボクはもうダメみたいだ……』『ギンタ! しっかりしろギンタ、ギンターーーーー!』
赤く染まった画面の向こうから、どう聞いても同一人物の声で悲壮なやり取りがかわされる。
『よくも……声のよく似た俺の弟を、よくも!』
『アーハハハ! 恨むなら自らの無力さを恨むことね、声のよく似た兄の人! あなたは私に指一本触れることは敵わない、なぜなら私はこの世界の神――全知全能の管理者なのよ! あなたを葬り去ることはもちろん、日本中の映像をジャックすることだって造作もないわ!』
『お前っ、日本中の映像をジャック、とか、お前、ふざけるな! 打ち合わせにないセリフ言うな!』
『えっ、あっ』
『黙れ! 不安になってんじゃねえ! 行くぞウオオオオオ!』
『こ、小賢しい、無駄だと言っているのよ!』
ふたたび悪魔の口から火炎が迸り、ゲンタはもんどり打ってその場に倒れた。
『オーホホホ! そうやって地面に這いつくばるのがお似合いよ、全国四十七都道府県のお茶の間に醜態をさらすがいいわ!(※一部地域を除く)』
『クソ……負けるのか……こんな……映像ジャックするときまでローカル局に気を使うようなやつに! 俺だけじゃ勝てない……だれか……』
カメラが切り替わり、ゲンタの顔がアップになった。
『だれか……誰か俺たちを助けてくれ! この絶望のゲームは、ログアウトはできないし死んだら現実でも死ぬけど、絶賛新規プレイヤー募集中なんだ! ド派手なスキルと奥深いやり込み要素、さらには豪華な声優陣! そして壮大な冒険と強大な使命が約束された、基本無料のデスゲームに参加してくれーー! ガイアクラフトで検索してくれーーーー!』
ゲンタの悲痛な叫びと同時に、ガイアクラフトのロゴと会員登録サイトへ誘導するURLが出現した後、映像は終了した。
目撃者たちがかしげた首は、しばらく元には戻らなかった。