定期報告(5月)
数回のコール音の後、プツリと呼び出し音が切れ
「はい高田です」と懐かしい母の声が電話の向こうから聞こえてきた。
随分と久々な気がするが2ヶ月くらいなんだよな。
「ああ、お袋か、積もる話をしたいのはヤマヤマなんだがじい様に繋いで欲しい」
「その必要はない、予想してたし何より表示からお前だと解っていたからな初めからスピーカーだ」
なんと言うべきか、面倒な事をしてくれる、文句の一つでも言ってやりたいが言ったところで蛇を出す事にしかなりそうにない。
「さて言いたい事は色々とあるが飲み込むとして、そうだなまずは引っ越しが済んだって事から報告するよ」
「確か川の近くに拠点を移すんだったか、で引っ越しが済んだって事はそれも終わったと」
「ああ、なんとかなったって感じだけど無事に終わったよ、今は薪を干すための小屋を作るために動いてる」
「そうか・・・・・・で狸の方はどうなった? 流石に一月も有れば姿くらい見ただろ」
「いや、残念ながらまだ姿を見せてない、間違いなく警戒されてるんだろうな 、むしろ別口の痕跡の方がよく見付かってる」
「大型の・・・・・・鹿か何かも居るんだったな、何にしても気を付けろとしか言えんが事と次第によっては狩人の一人や二人派遣してやろう」
相変わらずスケールがでかいと言うか色々ズレてるな、電話の向こうでお袋が呆れているのが見える気がする。
「最悪の場合は頼むとするよ、ああ念のために聞くけど頼んでもデメリットって言うか、追加で条件の変更とか無いよね?」
「もちろん有る・・・・・・と言いたいところだが奏さんに睨まれとるし安心して利用すると良い」
ああ、電話越しに睨みを利かせる般若が見えるようだ、どうやらこの間ガチャ切りした事でそうとう厳しくやられたらしい、いやもしかしたらこの島に俺が来た日からかもしれないな。
思い返せば出立の日のお袋は早朝という事を差し引いても機嫌は最悪だった。
おにぎりが俺の好きなツナマヨじゃなくて昆布だったのも無言の抗議だったのだろう。 心配を掛けて申し訳ないがこれ以外に取れる手はなかった、あのままだとジリ貧は確定的、今のご時世、就職はそこまで大変なんだ、等と講釈を述べれば間違いなくお袋の雷が落ちる。
触らぬ神に祟り無し、祖父が矢面に立っているわけだしありがたくその背中に匿って貰うとしよう。
さて伝えるべき事は伝えたと思うが、流石に勝手に切るわけにもいかない、向こうに任せるとしよう。




