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運命の出合い

 ひたすら燻す、チマチマと貯めたチップも使いきるくらいの気持ちで投入しつつ薫りを魚に染み込ませる、こうしていると残った虎の子を呑みたくなるが我慢だ、今は遠く離れたアイラの地でピートを焚く男達に思いを馳せるだけに留めよう。

 そうして色々と過程を経て樽に詰められ、倉庫で年月を過ごすウィスキーに思いを馳せるだけに留めよう、磯臭く、ヨード香立ち込め、木の香りがするだろう人生で一度は行きたいと思う彼の聖地に心を寄せるだけだ、しかしマジで一度は行きたい。

全ての蒸溜所を巡り、パブを見て回り、そして最後に巨人を訪ねる、そうして一本だけを買って帰る、あの日、先輩の家で飲んだ罰ゲーム始まりだったある種、運命的とも言える出会いより生れた夢の一つだ、あの日呑んだスモーキーな香り、弾けるような口当たり、遠く仄かなピーティーさ、あれより始まり全ての銘柄を経て辿り着いた答え、或いはハイランドやスペイサイド、ローランドにもっと素晴らしい出会いが有るのかも知れない。しかしその辺りはこれから先時間をかけて飲み歩き、そうして優劣を決めれば良いしもしかしたらスコッチではなくカナディアンだとかに落ち着くかもだが今は彼の地が俺にとって垂涎の聖地だ。


 時おり風の悪戯で物凄く煙たい瞬間が有るくらいでトラブルもなく飴色の燻製に変わってしまう、機材やらの関係で早変りって感じにならないのは残念だが専用の道具にチップでも1時間くらいは要るんじゃないかな、煙を完全に溜めておける訳ではなく、火加減もテキトー、チップも均一ではない、燻製としてはギリギリ売り物にはなってもコスト的に採算は取れそうにない、仮に採算が取れるように値上げとかするとして値段の割りに普通という微妙な結果になる、一度は買うが二度目がなくオススメもしない、まぁ売る気はサラサラ無いし金なんぞ手にしても使えないから無意味だ。

 せいぜいが焚き付けだがよくよく考えてみると配送がな、これが地続きの辺鄙な田舎とかなら車だけでなんとかなるがここだと船経由だからな、漁船で四半日近く、往復半日以上、送ってくれた漁師さんに物凄く感謝しかない。

そして同時に法的な理由は有るにしろそこまでして送り込んだ祖父には恨みだ、自分の愚かしさには絶望しかない、こんな島の所有権が失われたとして損は無いと思うが祖父からしたら自分の親父が財産の大半を注ぎ込んで買った島だもしかしたら思い入れとか強いかもだ、その割りにおそらく一度くらいしか来ていないと思う、と言うか若い頃に昇のお爺さんと山登りに来ていそうだ、高度的に物足りないだろうが数十年だか誰も踏み得れていない登山道も確立されていない山とか山尾家の男からしたら小さい山とはいえ小躍りできるだろう。


 戻ってから落ち着いたら昇にねだられるかもだが行くなら勝手に行けだ、代わりにゴリラやら熊やらという意味不明な状況に追いやられるが自己責任だ、一緒に行こうぜとか言われたらとりあえず殴るな、同じ理由で釣りしたいからの鶴子、星見たいからの望は……ちょっと迷うな、街明かりが全くない場所なんて山奥とかくらいでこの島は周囲数百キロ明かりなんて船とか飛行機の夜行灯くらいだろう。

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