達成感
昼からはまたまた罠作りだ、やはり物足りないと言うかラジオとかBGMが無いと調子が最大限にならない、師匠の家が竹工でのデフォルトと言うか基準だからな、フローリングと囲炉裏とお茶か甘酒、紅茶、生姜湯辺りにお茶うけとして甘い物、座布団に聞き流すラジオとかBGM、後は竹を加工する音だけが流れる空間。
子供と老人が何をやっているのかとも思うのだが当時は楽しんでいたし最近になってそれを取り戻した、今さらだが竹を扱うというのは地味だし面倒だし辛い物が当然の様に有るがしかし楽しい。
作ってそれで遊ぶ、難しい物を作る、苦心の末に完成させる、その挑戦する楽しみは先輩ならドエムと形容するがチャレンジ精神と達成感は変えがたい、間違いなくこの点は山尾家の男と共有できるだろうし他の道を歩く職人と共有できる、辛いし嫌になるし面倒だし、だが楽しい、難しいし苦労するが達成感がある、土を耕し、種を植え、水を撒き、花が咲く様に、その過程は変えがたい。
ひたすらチマチマとは言うがこの根気や惰性を続ける事ができるのが一流の条件の一つだ、天才だとて一足飛びはできても二足三足は無理なんだからチマチマは付きまとう、努力を忘れた天才は間違いなく非才に劣る、ウサギと亀では無いが才能に胡座を掻くだけで居られる世界ではない。少なくとも趣味の範疇を越えた瞬間にそれは如実に表れる、それを才に溺れると言うならその通りだが単に修行が足りない言わば自業自得しかない、そうして後悔して反省すらならば天才なんだ巻き返しは楽勝だ、そうでないならその程度というだけだ。
俺は亀かも知れないと言うか下手をしたらナメクジとかなんだろうが歩いてはいるからな、スタート地点よりは進んでいる、例えスタートダッシュに失敗しようとも加速や最高速が悪かろうとも相手が止まっているなら追い付くし追い越せる、相手が戦闘機だろうとフォーミュラーカーだろうと動いてないなら徒歩でも這いずってでも何時かは追い越せる。
その気になれば周回遅れもぶっちぎりの圧勝だって……いや、残念ながらゴールが無いから無理か、ただひたすら距離が離れていくだけだな。
それに勝ち負けなんてのはこの世界だと難しい、どれほど精緻だろうと売れなければゴミだし荒削りでも売れたらナンボの世界だ、大きく細かくが偉大かと言うと凄いは凄いがそうではない、小さく細かくが偉大かと言うと凄いは凄いがそうではない、芸術ってのは全くもって理解できず、なのにその世界に居る、俺の場合はバランスだとかに拘っているがそれが美なのかは正直に言って解っていない。
一期一会の美学にしたって心底理解してはいない、師匠を真似ているうちに気付けばそれが当たり前になっていたというだけだ、そうしないと落ち着かないと言うか有るべき物が有るべき場所にないような感覚に陥ってしまう。




