高級魚
潮溜まりの中にいた魚を少しとウナギかアナゴが入った竹筒、それに海水を少し手に拠点に戻る。
とりあえず魚を捌いて海水に浸けておく、後で適当に串刺しにして数日干しておけばもしもの時の非常食になる筈だ、流石に数週間も持ったりはしないだろうがそこはその都度その都度食べて処理すればいい。
本格的な干場はないから比較的風当たりと日当たりの良さそうな木の枝に串を渡し、鳥に盗られたりしないように目の細かい網を掛けておく。
さて、いよいよお楽しみの時間だ、ウナギかアナゴか、どちらにしてもこのサイズだと高級魚の一角だ、同時に捌くのが難しい魚として有名でもあるが。
見よう見まねとして比較的綺麗な釘でまな板に魚の頭を打ち付け、首元に腹側からナイフを入れて尾まで一気に切り裂く、そのまま今度は背から刃を入れて三枚下ろしにする訳だが、ヌルヌルだし暴れるしでかなり汚いできばえになる。
腹に入れば一緒だと割りきって、さてここからどうするか、普通なら金属の串を刺して炭火焼きしたり蒸したりするんだが焚き火しかないしな。
残念ながら網はないし、焼き石調理ぐらいしか方法はないが、もう細かく刻んで炒めてしまおう。
見た目や調理方はともかくとして食えるようにはなる筈だ。
中華鍋に薄く油を馴染ませ、刻んだ魚を投入して炒めていく、適度に焼き色が着いた所で料理酒と醤油を少しずつ加えてさらに炒める、イメージは蒲焼きと照り焼きの中間だ。
良い感じに色付き、香りが充満してきた所で竹皿に盛り付ける、さて見た目は少し崩れた魚の照り焼きみたいな何かだが、味の方はどうだろうか。
箸で身をつまみ上げて口に運ぶ、入れた瞬間に焦げた醤油の香りと酒の甘さ、そして圧倒的なまでの旨みを持つ油が溢れ出す、この味は間違いなくウナギだな。
しかし海にウナギとは珍しい、確か稚魚の状態で黒潮に乗って日本に来て川を上り、大人になったら川を下って海に出てフィリピンだかマレーシアだかの沖で卵を産むんだったか。
となるとこのウナギは卵を産むために南下していたのだろう、いやしかし養殖のためのシラスウナギ漁の最盛期が春先だった筈だし、時期的にズレが有るか。
まぁウナギの生態については詳しくないし、完全養殖が成功したのが俺が小学生の時だから十数年前、最近になってようやく完全養殖ウナギが出回るようになるくらいにはウナギの生態は未知だ、俺風情がニュースで聞きかじった程度の知識で判断できる筈がない。
それでも理解できるのは旨いという事実で、できるならちゃんとした蒲焼きにしてご飯の上に乗せたい所だな。
食事を終え、火の始末を済まし中華鍋を川で水洗いし、テントの中に入る、明日からは日干し場と薪干場を作らないとだな。




