出立
祖父の許可取り、いやまぁ部屋に入った時点で許可は得た、ただし超えてしまった予算をその場で払う事によってではあるが、間違いなく俺の様子とタブレットをモニターしてたんだろうな、と嘆息して終え。
友人に挨拶を済ませ、借りていた学生マンションの部屋を引き払い、届いた商品の確認やら持っていく服の選抜やら、祖父との交渉やらに奔走し2週間。
早朝5時に馬鹿みたいな爆音で目を覚まし、窓から外を確認してみれば、庭にヘリが着陸する所だった。
…車と船を乗り継ぐんじゃなかったのか、等と今さら祖父の金銭感覚に愕然としつつ、パジャマから用意しておいた服に着替え、リュックを背負い、段ボールに詰められた荷物を抱えて玄関に向かう途中で
「朝御飯くらい、持っていきなさい」と不機嫌な母にアルミホイルで包まれたお握りを一つ、ダンボールの上に置かれた。
ありがたく頂戴して、この日のために用意した靴を履き、庭に止まったヘリに近づく、物凄い風圧と音に辟易しながら、ご近所さんに心の中で謝罪し、開かれた扉から荷物を入れ、俺自身も乗り込んだ。
僅かに遅れてスーツ姿の祖父も乗り込み、扉が閉まるとゆっくりとヘリは浮上、空の旅へご案内と言った感じで滑らかに地面から遠ざかり、田舎町を後ろにグングン進んでいく。
その様子にテンションを最大まで上げて、だが子供のようにはしゃがないように勤めつつ窓の向こうを凝視していると、トントンと肩を叩かれた。
振り向けば祖父がヘッドホンを指先で叩きながら、俺に差し渡す、まるで映画のワンシーンだとテンションをさらに一段階上げて限界の向こう側に到達、もうはしゃいでも良いんじゃないだろうか、等と振り切れたテンションでイソイソとヘッドホン、いやマイクが付いてるからヘッドセットか、どちらにせよ差し出されたソレを装着。
「あー、あー、テステス、聞こえとるか」と祖父の声が聞こえると
「聞こえてますよ」
「聞こえてまーす」と操縦士と俺が続く。
「一先ず、大阪の証券会社に向かってる、株の値動きかどうにもキナ臭いのでな、直に視察する必要が出た、そこからお前は車と船で島に行ってもらう」と祖父が告げる。
祖父がキナ臭いというなら何かあるのだろう、投資家としての祖父は常勝不敗の化け物、高田家の広大な土地を博打で成した初代から続く天運持ち、祖父の場合は株と技術投資に特化しており、曾祖父はギャンブル一辺倒、その前は平成の後期に生まれた人物で土地転がしの名手とかだったらしい。
曾祖父はギャンブルで成した財産で島を買った訳だ、入植するにも地理条件が悪く、管理費用を考えれば税金の無駄という時代だからこそ買えたらしいが、曾祖父は島をリゾート開発するつもりだったらしい、その前に死んだため計画は流れたが今も高田家の所有物として島は存在している。