一手ミス
思考の迷路を突き進む中で一通り作業を終えてもう夕方だ、若干残ったのはあれかね、少し漂着物拾いに時間を掛けたからかね、それとも思いのほかロープの緩みが酷かったからか、気もそぞろで思考に没頭したからか、まぁ全部って事にしておこう。
でないと自分が嫌になる、時間を掛けたと言っても数分、長くとも30分以内、酷かったと言っても極端ではない、いや、これ以上は止めよう、臭いものには蓋をして無かった事と仕方がないと割りきらないとやりきれない、割りを食うのは明日の俺だがどうしようもない。
一手ミスって損した気分だが仮に最善手打った所で王には届かず守りにもならない、ひたすらポーンを並べている程度のゲームですらない作業、その中でほんの少し置くべき場所を間違えた、ただそれだけで正しい位置に置けば済む話。
ただそのためには夜明けを待って漁とか済ませてからだから半日くらい待たないとだ、まぁ寝ればあっという間だ、気付けば明日の朝で昼時には作業も終わるだろう。
今日は薄曇りだな、このまま維持してほしいが風が有るのに雲が散らない、霧のような雲なのに動きはするが散らないってのは少し怖いな。
湿気がそれだけ強いのか気圧の関係か、それとも上空は風が穏やかなのか、降らなければソレで良いが不安でしょうがない。
まぁ降るなら降るで夕方以降かテントの中に居る時なら構わない、流石に安定して寒さを感じる今日この頃に屋外で雨に降られるとか嫌すぎる。
とりあえず朝の漁を終えたが微増って感じで底は越えたらしい、墨巣さんが相変わらずのボウズだがそもそもこの数日彼女が銛を放っている所を見ていない、って事は見える範囲に魚が居ないという事か、寒さのせいとかならもっと前からこの状況になっていただろう。
まぁ潮の流れとか海草云々とかで寄り付かなくなっていると見るのが妥当かね、それかこの辺りの小魚が減ったからそれを狙う奴も移動したか、どちらにしても状況は悪い、切迫する程では無いにしても胡座をかける程余裕でもない、腹が減っては戦は出来ない、ただでさえスタミナ不足を痛感しているのに空腹で消耗するとか最悪だろう。
かと言って漁場を見極められる程に卓越しているわけでもない、確かに無駄は無くなったし短時間で漁を行えるくらいに慣れたが魚がどの辺りに居るかなんて解らない、それを知るには数年単位の経験が必要だろう。
墨巣さんが別の場所に移動するというのも手だろうが二人居るのにわざわざ危険を犯すのもな、一人の頃は普通に漁をやっていたが今は墨巣さんが居るという安心感が有る、万が一で波に拐われた場合、ひたすら泳ぐしか方法が無かったのがロープ投げて貰えるってだけで随分と違う。
泳げないわけではないが仮に今が夏場でも海に急に意図せず飛び込んで無事でいられると思う程上手くはないし運動神経だって良くない、墨巣さんならまだなんとかなるだろうが俺の場合は海の藻屑になる可能性が高い。




