中途半端
さて、何度目になるのか竿を投げるが全くもって当たりの気配は無い、幸いにしてと言うべきか墨巣さんの方もウンともスンともだ。
もはや釣りをしていると言うより海に向かって糸の付いた棒を振り回していると言った方が正しいくらいに動きが無い。
まぁ次の目標もできたし良しとしよう、無駄足にはなったがおかげで時間は潰せたし布石も一つ打てそうだ、心の休息にもなったし総合的に見てもプラスだろう。
のんびりと森を進んで拠点を目指す、時間とか関係なく流石に海岸線を歩くのはマズイからな、まさかこんな事で森のルートが役立つとは予想していなかったが何がどう転ぶか解らないものだな。
単純に時間短縮だけを目指していたがアレだけの苦労のかいも有ったというものだ、そう考えると拠点を移したのとかもプラスに転んではいる、あの時は水をもっと確保したかったのと食料を増やしたかったのとの二つか、磯に関しては移ってから良好だと知ったと思うがシェルターより色んな意味で優れている。
夕方少し前に拠点に到着して装備を換えてとりあえず滝に向かう、上から見て問題無ければ俺だけでも漁に行きたい、焼け石に水とは言え少しでも飢えを遠ざける事ができるからな、ほんの僅かでも後回しにできるなら上々だろう、遅らせる事ができたならその分だけ耐える時間も長くなるし耐える時間が長引くなら外からの対応も大いに期待できる。
水平線に目を光らせるが船らしき影は見当たらないな、とりあえず大丈夫そうか、まぁ下に行ってから問題が起きる可能性も有るが見張りを墨巣さんにお願いしても距離と滝の轟音で叫んだ所で聞こえる筈もない、残念ながら俺がどれだけ幸運でも全てが上手く行くなんて事は無い、中途半端な幸運ならなおさらだろう。
さて、とりあえず安全第一で墨巣さんには拠点に戻って貰うとして、俺の方は何時ものように漁に向かうとしよう。
ホースで水を抜きつつ籠を引き上げて中を確認していく、少し小さいウツボとタコか、とりあえずは良しだ。
そのまま潮溜まりの中に潜んでいたハゼとイワシを手にして拠点に戻る、そこそこの量にはなったし十分だろう、少なくとも腹八分目には届くし。
のんびりと拠点に戻り魚を捌いていくとしようかね、数が数だがもはや慣れた、魚屋や漁師には及ばないまでも釣り師くらいには届くくらいには捌いている気がする。
タコの滑りを塩揉みで取り去りサッと茹でる合間にハゼとイワシの腸を手早く取って串打ちまで済ましていく。
そのまま茹で上がったタコをぶつ切りにしつつ新たにお湯を沸かしてウツボを捌く、後はウツボを煮付けにする間にタコを軽く炒めながらハゼとイワシを焼いていく。




