時代錯誤
電話を切って電源を切る、とりあえず墨巣さんに報告して作業を切り上げるか、予定より量が少なくなるが許容範囲内だろう。
なんとかギリギリ安全圏には乗るだろうし乗らないにしても誤差の範囲内だ、しばらくはこれで過ごすとして落ち着いたらまた作るだけだ。
とりあえず今は安全の確保だが、まぁ上陸したところで罪状が増えるだけ、この場所は砂浜から岩礁に至るまで全て我が家の私有地であり一歩踏み入れるだけで不法侵入だ。
時代が時代なら首を跳ね落とされるかもな、まぁそんな時代錯誤な時代は数世紀は前、明治維新と共に消え去った過去の遺物だ、それこそ徳川家との関係も250年は前に途切れているし初代からの付き合いとなると近所に住む徳川家臣の家系が幾つかくらいか、それに関しても御近所付き合い程度で一般的な大家と店子の関係のソレだしな。
残念ながら今この瞬間に、俺が目線を外して踵を返し森を進む瞬間に新たな動きを見せた所で俺にはどうする事もできやしない、公的機関が現れるのが早いかそれとも彼らが逃亡もしくは上陸するのが早いかは解らない、仮に現れるのが早かったとしても捕まるかは別問題だしそもそも罪状が無い。
訓練で立ち入り禁止区域とかに指定されているにしても燃料とかの都合で突き抜けないと遭難するとかの事情が有れば話は変わるし、それこそ現時点で遭難中で最後の燃料で島を目指したとか言われたらそれ以上問い詰めるのは無理だ。
例え装備がおかしかろうと写真がおかしかろうと、メーデーを発信してなかろうとも理由を示されれば厳重注意で済んでしまう、おそらくはその辺りの言い訳は用意しているだろうし知恵が回るならアリバイ工作や偽の証拠くらいは用意しているだろう、公的機関としてはそれらを一つずつ潰すしかないが潰したところで上陸でもしない限りは罪状が無い。
仮に上陸しても緊急避難のためと言い張られて終わるし、有ったとして前科は無くともブラックリスト入りって所かね、公的機関にそんな物が有るのかは不明だが。
拠点に戻って見れば海水が鍋の半分って感じになっているな、とは言えもう補充には行けないし今日は磯に行かない方が良いだろう、このまま濾して仕上げまで持っていくとしよう。
「少しトラブルだ、後で説明はするからとりあえず濾す所まで済まそう」
怪訝な表情の墨巣さんにそう告げて布に水を含ませて土鍋を掴む、海水持ってきてないしな、そりゃぁどうしたんだと問いかけたくもなるだろう、たがこれ以上煮詰まると苦汁と分離とかできなくはないが難しくなるんだよな。
一通りの作業を終えて後はこのまま水を完全に蒸発させて塩を取り出すだけだ。
とりあえず話す時間を確保するために火力を最小に落として一気に煮詰まったりしないように注意する、ここまで来て焦げ付いたら台無しだからな、慎重にいかないとだ。




