真似事
さて、昨日の今日だが疲れを取りたいしどうするのが正解かね、ようやく警戒網が片付いたし勢いを付けるために塩作りに邁進というのも良いが体と心を休めたいのも事実だ。
こういう時はボタンを弾くか、表なら塩、裏なら休暇だ、どうせ1日の差だしな、後腐れなくいこう。
親指でボタンを弾いて手の平に納める、そっと確認してみれば表か、なら今日は塩作り、明日は休息といこうかね。
何時ものようにストレッチからスタートして漁で朝一番の仕事を終えて早速作業開始だ。
竹で水を汲んでしばらく放置して上澄みだけを土鍋に入れていく、後はある程度の所で墨巣さんに預けて竈で水を蒸発させるだけだ、俺の方は拠点と海を往復して追加の海水を運ぶ役だが慣れている。鍋に残ったおおよその水量を予測して水を運ぶなんて造作も無い。
なんなら休んでいる時間の方が長いくらいだしある意味で休息にはなる、まぁ坂を登り降りするからプラマイはほぼゼロ、ややプラスに傾くかなって感じだ。
海で黄昏るが黄昏時にはかなり遠いな、夕焼け見ながらボーッとするのを黄昏れると言うが早朝と言っていい時間帯の場合に適切な言葉が有るのかね、まぁ辞書を紐解けば見付かるかもだが。
おそらく墨巣さんは墨巣さんで竈を前にボーッとしていそうだが彼女の好きにって感じだろう、仮に拠点で躍り狂っていたとしても俺に知る術は無いし関与も邪魔もしない、今は作業こそしていても自由な時間だ。
まぁ最低限のモラルとか守っていれば良いだろう、この島にモラルとか有るのか解らないが、墨巣さんが居るから踏みとどまっているかもだが今の精神状態だと水浴び以外で裸で過ごすとかやりかねない、それこそ原始人の真似事とか、あぁ現時点でほとんど真似事に近いか。
近代的ではあっても行動の一つ一つの本質は原始人のソレだ、遥か昔のご先祖様との違いは道具の質と知識量くらいかね。
何度か海水を運んでいく、これで少しは取れる塩の量も増えるだろうが微々たる物だろう、確か海水の塩分濃度って一桁辺りだったと記憶しているから1リットル用意しても数十グラム、補充しながら少しずつ増やしてもソレなりにだ、1日時間を使ってもキロを越える事は無い。
まぁ塩田とか使うならもう少し行くのだろうが方法を知らないからな、まぁ薪は減ったとはいえ潤沢だから1日使っても余裕だが採算性は最悪だな。
焼き干しオンリーの昼食を挟んで夕方まで行ったり来たり、夕方の漁を前に海水を濾して竈にセットする、後は交替で漁に向かえば塩が完成だ。
俺の方はタコとハゼ、それにカサゴ、墨巣さんはカワハギか、タコ飯にハゼの煮付けカサゴの塩焼きとカワハギの肝和えで行こうか、ただ米を炊くには竈がな、まぁ簡易竈でなんとかするか、ほんの少し前はそれでご飯を炊いていたわけだし。




