悪癖
魚を捕り、調理して眠る、朝起きて魚を捕り、作業をして調理する。
文字にしてしまえばここまで単純になるし、間違ってはいないのだが流石に情緒も無ければ感慨も無い、それでも日々の生活として馴染んだ作業で初めの頃ならいざ知らず今となっては片手間に終わる単純作業だ。
さてさて、さておき、さておいて、うん中々の三拍子だな文脈や文法としては間違いだが音として捉えると響きが良い。
「ああもうクソっ」
怒鳴り声と共に頭を掻きむしる、悪癖だ悪癖だと思って改善をしようとしていても染み付いた汚染は未だに浄化しきれないらしい。
思春期の忘れ形見、中二病の後遺症、カオスな思考は良いとして音の響きにまで拘り韻を踏む悪癖、本当にどうにかしたいものだ、それこそタイムマシンが有ったらあの頃の俺を殴ってでも治療している。
とまれ、早く森を踏破しよう、後悔も反省も今晩に回して今やるべき事に集中だ。
昨日切り開いた破壊痕を頼りに森を突き進む、何処まで進めば昨日引き返したポイントに到着するのか解らないし、特にマーキングもしていないので解る筈もないが、おおよそ30分も歩けば到着している筈だ。
少しずつチャプチャプとした水の音が大きくなり、昨日選定したとりあえずの目標が近い事を理解する。
少しだけ岩が増えだしているが、岩と言えるかは微妙だ、遠目には高さ1メートルで数トンは有ろうかと言う巨岩なのだが近付けば穴だらけでスカスカの軽石状の巨岩であると解る。
忘れがちになるがここは火山島、こういう石や岩があるのは当然と言える、山にしても山頂部は禿げ山で中腹までしか木々が生えてないからな。
森の中をコンパス片手に突き進む、大まかだが東に向かって川は延びているらしく、位置関係は掴みにくいが河口から直線で2キロ弱くらいは進んだ筈だ。
目線の先の木立の隙間に煌めく日光の明りから開けた場所に出ると理解し、とりあえずそちらに向かって軌道を修正して進む。
あっと言う間に木立を抜けた先に待っていたのは大きな池と川の起点だった。
対岸までざっと20メートル、澄みきった水が一端を切り開き川として海を目指してはいるが、流れ込む川の流れは見えない、深さは中心部で2メートルくらいだろうか、すり鉢状の底は砂と砂利と岩が混在している。
とりあえず軽く池を半周して見るがやはり流れ込む川は無く出ていく川が有るのみだ、おそらく池の底から水が湧き出しているか地下水脈の出口のような洞窟でも有るか、いずれにしても此処は本拠地として最高に近いロケーションだな。
惜しむらくは海にもう少し近ければ良かったのだが、砂浜となる池の淵近くには野草としてタンポポやツルムラサキが群生している、総合的に見てマイナス面は帳消しだ、此処を本拠地としよう。




