リスクリターン
漂着物に見切りをつけて焚き火ポイントまでのんびり歩く、着いたら開拓ルートに繋ぐ道を作るために森を進んで基準となるロープ張りだな、飯はその後で良い。
海岸線を抜けて森の入り口だ、前に軽く整備はしたから獣道くらいには通りやすいが本格利用には程遠い、とりあえず最短ルートを確認しつつ現実的なルートの開拓だな。
太い木は迂回して藪も迂回、何度か別ルートで行き来しておそらくこれが現実的な最短ルートだろうとやや北東に向かう道に決める、このルートなら迂回は一ヶ所で済むし大きな迂回でもない、惜しむらくは北東に伸びるルートだから帰るのにやや遠回りって点だが北西側は藪の壁だ、流石にこれを開拓というのは面倒過ぎる、本当にいよいよ暇をもて余してしまった時ならともかく現時点ではひたすら嫌な苦行にしかならない。
何時かは作業しないとかもだが今すぐ嫌々作業をするより効率的な筈だし何よりこの藪を前にすると気後れしてしまう。
ついという程新しくはないが先日のあの地獄のような壁を越えるルート開拓を思い出してしまい物凄く嫌になる、アレを過去の物として受け入れて大変だったなと言って今度は目の前の藪をあの頃より距離は短いからなんて奮起できるようにならないと手を出したくない。少なくとも一度心が折れて復活したばかりの今はゴメンだし多少は強くなったとは言え復活したばかりの心で立ち向かえる程生半可ではないか事は体験済みだ、新しい事を始めるのにリスクやデメリットは仕方がないが好き好んでハイリスクローリターンに飛び込むのは流石に愚か過ぎる、仮に飛び込むにしてもタイミングは今ではない、男気見せるためとかにしては下らなすぎる。
さて、とりあえず腹ごしらえだな、ルート選定で多少は薪も拾えたし持ってきた乾いた木と合わせてなんとかなるだろう。
おそらく台風の影響で崩れたらしい簡易竈を手早く組み直してサクサク着火してサクサク調理を済ます、焚き火を使うのも慣れとか染み付いたとか日常とか越えた何かになっているな、もはや呼吸の如く当たり前でスイッチ一つだった頃は遠い昔のようだ。
俺が手斧で枝を切り払い、少し離れた後ろの墨巣さんが鉈で下草を刈っていく、この連携にも慣れたもので阿吽の呼吸ではないにしても音や気配でおおよその距離感は掴めるようになった。
手斧を振り下ろすのに疲れれば交代して腰を屈めて鉈を振るい、腰がいたくなれば軽く伸ばしつつ距離感を調整する、比較的楽に進むのは慣れのお陰かそれとも距離か、なんにしても残り数歩って所までは漕ぎ着けた、残りは明日にだな。




