鬼が笑う
ギリギリまで頑張っては見たが残念ながら空振りか、まぁそんなに上手く行くはずも無いよな、仮にシェルターで一泊を覚悟で動いても望み薄だから切り上げたが次は階段が終わってからになるだろう、その時はシェルター側かそれとも温泉側か、どちらにしても長期戦は覚悟で長期戦となればシェルターの方が都合が良いんだよな。
温泉側だと水も寝る場所も漁場も無いから毎日毎回往復だがシェルターなら手狭な事に目を瞑るなら全て揃うし。
しかしそうなると少なくとも墨巣さんのテントは移動だな、一人はシェルターでなんとかなるが流石に地面は嫌だしシェルターに二人は想定外だし諸々の理由でその手は不可能だ、俺のテントは荷物だらけだし消去法として墨巣さんのテントを移動か俺が地面かシェルターをもう一つかの三択で楽で早くて確実なのはテントの移動だろう。
まぁタラレバだしまだ少しばかり先の話しだ、階段完成の祝いに温泉休暇を取った時に当たりを引くかもしれないし可能性の一つでしかない、それこそ往復の時間を覚悟で本拠地とシェルターを行来しても良い訳だし絶対ではないのだから今から心配や憂鬱に浸るのは気が早すぎて鬼の腹筋がシックスパックまっしぐらだ。流石に来年まで持ち越す気は毛頭無いが残念ながら材料が揃うかどうかは天に任せるしかない、材料集めの中で気付けば4月なんて笑えない冗談だって可能性としてはゼロでは無いのだから。
森を進んで磯を目指す、なんと言うか漁場に行くために海を離れて森を突き進むのが最短ルートって中々に皮肉だよな、と言うか地形的に意味が解らない、シェルターより東側は海岸線が抉れていて西側は飛び出ている、そして滝を基点にさらに角度を増しながら弧を描く岬は温泉を突き抜けてさらにその先へだ、上から見たらS字の海岸線か、或いは南端部分に近いからってのも有るのかね、この島は北東から南西が長径で北西から南東が短径、地図だと台湾みたいな形だしな。
竹林までそろそろってところでまたもやガサガサと森の木々が揺れる、もはや馴れたを通り越して日常茶飯のスマイリーがご登場するらしい、本当にご近所さんと言うか当たり前のように会うな、そのうち本拠地にまで顔を出して来そうと言うか忌避剤の効果が無いのかね、まぁ流石に日本の薬品でゴリラを想定はしないか。
鹿である、ヌッと木々の間から現れたのは雌の鹿に子鹿も居る、そう言えばコイツも居たんだったな、最近はスマイリーばかりで忘れていたが鹿と狸もこの島の住人だ、いや人じゃないか。しかし子鹿が居るって事は少なくとも繁殖できるだけの頭数は居るらしい、初めて見たのは立派な角を持つ牡鹿だったが嫁さんと子供かね。
おそらく熊の食料として日々弱肉強食を謳歌しているだろう野生の象徴なんだが恐さが無いのはスマイリーのような凄みが無いからだろう。
それでも突進でもされれば怪我はするが少なくともこっちを見ているだけで身構えた様子はない、とりあえず奈良か広島の神の遣いのように撫でられるとまではいかなくとも敵対しないだけありがたいな。




