刑
人生ってのは何が起こるのか解らない、一寸先は闇で五里霧中、俺の思考より混沌としていて複雑怪奇な代物だ。
それはこんなところでサバイバル生活を続ける中で嫌と言うほどに、痛いくらいに打ちのめされて理解して覚えて刻んだ真理の一つだ。
だが、それでも、だけれども、流石にこんな状況は予想や想像の限界を何段階も越えていて受け入れるのに時間が掛かる、現実逃避しても現実が回り込んできて逃げ切れないそんな感じだな。
目の前は真っ暗、目を塞ぐようにタオルを巻いているのだから当然だろう、しかも二枚を使って雁字搦めだ、残念ながらと言うべきかそれともありがたい事にと言うべきか視界は完全に零、目を開いたところでフワフワの毛しか見えないし目に毛が触れてそもそも開けてられない、だからずっと閉じている。
こんな物など容易く外そうにも腕もまた後ろ手でロープで雁字搦め、挙げ句の果てに腰ひもで近くの木と繋がれている、庭で飼われた犬の方がまだ自由ってぐらいに不自由な体たらく。
温泉に入るという答えには面食らったがそれは良い、不安だから近くに居てほしい、それも良いだろう、だがこの仕打ちはあんまりだろう、俺が覗くとでも思っているなら心外だしそもそも俺の性癖は彼女も知っている筈なんだがな。
と言うかコレ、もしもの時に俺死ぬよな、仮に今目の前に熊が居ても俺には見えていないし音と臭いで判断するしかないし逃げるに逃げられない、当然ながら攻撃もできないし叫んで終わるだけか。
せめて手だけでも自由にとも思うがタオルを巻いただけなら容易く外せてしまう、そんなつもりはさらさら無いのだが言ったところで信用する筈もない、仮に俺が逆の立場でも信用しないだろうし相手が鶴子や望でも同じ事をしただろうから間違いない。
まぁソノ先輩なら、いやあの人なら俺の入浴中に堂々と悪びれもなく正面切って現れて服を脱ぎ捨てて『お背中流します私の体で』くらいは言ってくるか、と言うかおそらく現実のソノ先輩ならもっと酷いかもしれないな。
しかしなんだな、この状況は何らかの刑を待つ人になら理解してもらえるのかね、真っ暗で自由はなく最悪の場合は死ぬ、それこそ首を跳ねられるか焼きごてでも押し付けられるのかとビクツク奴の気持ちを今なら理解できるし逆もまた然りだろう。
ただまぁ断罪が確定した身分と運次第の俺とでは明確な差異があるのだが。
と言うかコレもしもの時に戦力になれないってのも有るよな、仮に墨巣さんの目の前に熊が現れて叫び声を上げても俺は助けに行く事はできないわけだし、せめて万が一の時にロープを切り裂いて動ける刃物とか、いやそこもまた信頼か、俺が女なら、或いは墨巣さんが男ならこんな問題は起きなかったんだがな。




