苦労の対価
さて、漁を済ませたところで食器の交換といこうか、とりあえず竹を二本も運び込めば十分だろうが串の分を含めて三本運び込むとしよう。
竹林に転がった物の中から適度な太さの竹を選んで担ぐ、食器用となると取れる物の中でもかなり太い物になるから乾燥が進んだ竹とは言え流石に重く二本が限界だ、まぁ長さも有るのだがバランスを取りながら運ぶとなると今の体力だとどう頑張っても30キロ程度が限度だろう。
森を抜けて拠点に戻り早速作業に取りかかるとする、まずは適度に切り分けてそのまま器にする物、割ってから節を抜いた物、削り出した箸、調理器具もついでに交換しよう菜箸や杓文字もテキパキと作っていく。その過程で出る端材は串に加工できるものは加工して残りは焚き付けにでも使うしかないな。
とりあえず加工は終わったが古い物は焚き付けにで使うために適度なサイズに切り分けるかね、それなりに愛着もあるからこのまま薪に使うのは流石にどうかと思うし。
さて、予定外に作業が飛び込んだせいで少しだけ時間を消費したがまだ余裕はあるし穴堀といこう、おそらく一段掘って設置して埋め直して踏み固めれば時間的に微妙って感じになるだろうから然ほど進んでくれないが少しは進む。
粘土って本当に面倒だな、と言うかこれだけの量があるなら竈を作る時に混ぜ物無しで、いや流石に足りないか、今回の場合埋め戻す必要もあるから余る分を集めても竈を全て覆う事はできそうにない。
竹を埋めてまた一段が完成する、まだ若干残った時間で次の一段に取りかかるがそれほど掘り進める事ができずに時間切れだ、拠点に戻るために登る坂が少しずつ短くはなっているがまだまだ先は長くこの数日は停滞に近い。
お昼休憩を挟んでまた大地との戦争を再開するがこの長期戦、最終的に粘り勝ちで征するのは確定しているがかなりの難事だな、マトモな装備なら半分とまでは言わなくとも相応に短縮できたんだが今ある物で対応というのは古今東西サバイバルの常だ。
神でも魔法使いでもない身で願った物を苦労なく生み出すなんて不可能で、なんならサバイバル関係なく不可能だ、例えここにコンビニが有ったとしても対価となる金銭を持っていないのだからスコップやツルハシを置いていたところでどうにもならない。
まぁ『今までの苦労の対価は有るのか』と問われれば『そんなものはない』としか答えられない、幾つもの物を作ってきたが基本的に日常に組み込まれて埋没する類いで、それなりに愛着はあっても使い潰す事に躊躇いはない、それこそこれから先、急がしいならシェルターに続くルートを整備なんてしないしシェルターに関しても一度か二度使ったきりだが使う機会はもうないだろう、その時その時その場その場で必要だったから作った程度で既にその力を存分に果たしてくれていると思う。
この階段にしても頑張って開拓しても目に見える効果なんて雨の翌日に温泉側に行きやすくなる程度で、それに関しても現状で怪我を承知で無理をするならできなくはない、完成は今月中頃から末くらいだろうが来月か再来月には埋没して時おり思い出して『便利だな』『頑張って良かったな』とその程度にしか思わないのだろう。
それでも余暇を過ごすより忙しさにかまける方が楽で良い、現実逃避に近いがこんな生活だと逃げて何が悪いと居直れてしまう、無駄でも無為でも毎日毎日、日がな1日暇に嘆くような日々を送るよりは辛く苦しく歯を食い縛るような作業の方が幾分か生きている感じがする。




