無い無い尽くし
穴を掘って竹を打ち込みまた一段が完成する、終わりは見えているが僅か数分足らずの距離が遥か先に見えてくるくらいに遠い、既に心の中で諦めろ諦めろと五月蝿いが無視して穴を掘っていく。
ここでやめたら全く意味がない、問題になるのはもう少し上の方だし何よりほんの四段で音を上げるような柔な精神は持ち合わせていない、少なくとも半年近いこの生活で鍛え上げられている。
ちょっとやそっと辛いくらいで諦めたりはしないし、ここで音を上げて必要な事を、自分が必要だと思う事をやらないと後で泣きを見る事になる、例えば雨の翌日にどんな理由があろうとも温泉側に向かわないといけない理由ができた時とかに困るし、その時に足を挫いたりして最終的にどうしようもなくなって最悪の中で絶望に沈む。そんな最悪の想定だって有るんだ、万が一の可能性でしかなくても先んじて潰せば零になる、いい結果に近付くなら一でも大きな数値を、悪い結果なら小さな数値を求めないと、ここにはコンビニは無い、病院も無いし警官も居なければ本当の意味で安全な場所だって無い、無い無い尽くしの大自然。
ほんの僅かな、コンマの後に続く数字が一つ違うだけで結果は大きく異なる、少なくともあの時に対策さえ取っていればなんてタラレバの後悔とは無縁になる。
そのまま夕方まで使ってようやく二割に届くかって感じか、とは言え単純に後4日で終わると喜べないんだよな、まだ掘るのが容易いポイントすら越えていないんだ、それに大きな石とか現れた日にはその一段を作るのに数日とか必要になるかもだしな。
最悪の場合は石工よろしく岩を砕いてってパターンもある、そうなったらそれだけに2日は、いや道具を揃える必要もあるから下手をすると一月以上だな、金槌はあるがノミはないし、代わりになりそうなのは釘とネジが数本だ、それでも少しずつ削っていく事は可能だが途中で全てへし折れて使いものにならなくなるだろうな。
まぁ今のところはタラレバだ、最悪の想定の一つとして記憶の片隅に留め置いておくだけでいい、言ってしまえば気持ちの備えでしかなく蓋を開ければ杞憂ってのは毎度の事だ、それでも止める事ができないのは石橋を転ばぬ先の杖で叩いて渡るという基本的理念に基づいてだ、気疲れはするが足元が一気に崩れ去る事はなくなる。
さて、準備も済んだところで漁の時間だ、今日の最後を彩る部分だからな気合いを入れていくとしよう、まぁ入れたところで捕れるかどうか、うん前も思ったと言うかもう百回は思ったんじゃないかな? 何度となく思った覚えがある、気合いなんか入れたところで捕れる量も種類も変わらないからな、とは言えどうしたって疲れが出てくる時間帯でもあるから入れ直さないとバテてしまって作業にならないから仕方がないって部分もある。
捕るためと言うより自分を鼓舞して力を捻り出すためって面が強いな。




