王
「まぁ確かにテンプレと言えばテンプレね、そうね、じゃあ良いニュースから聞きましょうか」
「OK、じゃあ良いニュースからだ、この先は後一つ山を越えればかなり先まで山はない」
「悪いニュースは?」
「この先の山が富士山クラスって事だな、具体的には幅にして約数十メートル、奥行きも5メートルはあるこれまで片付けたどの藪よりも深い」
もしかしたらさらに先にもっと酷いのがあるかもだが、とりあえず次の藪は最大の難所だろう、とは言えなんとかできたなら10分は稼げる。
完成すればほぼ毎日使うだろう道だ、少しでも短い方がいい。
そんな理念から始めた直通路の開拓だが序盤にして最大級の山場を迎えている、とは言え目の前の壁を、アレを目にすると壁と言うよりカーテンだが、越えないといけないな。
墨巣さんと交代しつつ藪を抜けたところで切り上げて拠点に戻って食事を済ます、とりあえずこれまでで10分は時間を短くできたと思うがこの先が辛すぎて泣けてくる。
食休みを挟んで再び現場を目指す、そう言えば坂道の整備もやらないとだが何度も往復するなかで踏み固められて、慣れてきてしまっている、それほど危険でもないし別に良いかなと思い始めている自分がいる、と言うか目の前の壁が大きすぎて考えたくないというのが本当の所だな。
さて、目の前にそびえ立つ壁を見ていても何も進まない、とりあえず一刀目を入れていこう。
鉈で少しずつ切り進めて行くがほとんど前に進めない、本当にチェーンソーが欲しくなってくるな、鋸だと危ないし手斧だと力は入っても刃が小さいから数を振る必要がある、ナイフやワイヤーソーは使える筈もない。
交代しつつ夕方まで進めて半分どころか4分の1にすら届かない、今までとは密集率が桁違いだし枝も太い、これを越えるのはかなりの手間だな。
拠点に戻りつつ何か方策は無いかと考えるが思い付くのは重機かチェーンソーが欲しいっていう泣き言くらいで今ある道具を使っての方法は全く出てこない。
残念ながらチマチマと少しずつ切り進むしかないらしい、幸いな事に頑張れば前には進めるし報われる。
幾つか迂回しつつ進むなかで鉢合わせてしまう、なんと言うかお久しぶりって気がしないくらいには日常茶飯になってきているな。
相変わらずの体躯のスマイリーだ、小学生の頃に動物園で見たゴリラより一回りも二回りも大きな体は群れのボスって単語が似合いそうだ、仮にここがジャングルで群れを率いているなら王者という称号を欲しいままにしているだろう立派なゴリラ。
相変わらずこちらを確認すると同時にニヤリと右の口角が上がっている、こちらも負けじとニヤリと口角を上げてみたが全く反応はなく、ほんの少し見詰めあってから向こうの方が森の奥へと消えていった。




