機能美
テキパキと毒針だけを処理して後は墨巣さんに任せて空き缶を取りに向かう、見回りを完全に忘れていたから不安は残るが大丈夫だろう。
森を進んで目的の木の虚から空き缶を取り出す、全く変わりなく杞憂だったらしいな、とりあえず一安心だが次も同じく入念に小細工を使ってになるんだろうな、なんと言うか缶詰一つにここまでするかと言いたくなるくらいに慎重だな。
拠点に戻る頃には焚き火で魚が焼かれているが間違いなくまだ生焼けだろうな、それでも美味しそうでキャンプとかの理想型がここにあるんだろうな、肉とかマシュマロとかないからアメリカンなキャンプを求める人には物足りないだろうがサバイバル物を求める人には堪らないだろう。
少なくとも子供の頃に漫画で見たような光景がここにある、全く胸がときめかないのはとうの昔に慣れきったからだろうな、魚が焚き火で焼かれているという光景に慣れるというのはかなり不思議な感覚だが美味しそうとかお腹空いたなとかいう感想は有っても感動はない。
大人になったとか、荒んだとか汚れたとかではなく、単純に日常に組み込まれて当たり前の事と認識しているんだろうな。
夕飯を美味しく食べて、すぐに旧拠点に移動して時間が来るのを待つ、おおよそ7時くらいには届くと聞いたような覚えが有るのだがそろそろだよな、とりあえず携帯の位置情報を基準に飛んでくるという話だったが前のデータを元に本拠地に飛んでいった場合はどうしたら良いのかね、流石に数か月前にかけた電話番号なんて覚えていないし履歴機能は付いていないからかけなおすのも無理だ、杞憂で終わる事を願うしかないな。
暇な待ち時間で少しばかり空を見上げて星々を見つめる、新月1日前だけ有ってくっきりに近いな、壮大で壮観で手が届きそうと言うのはこれの事を言うのだろう。
十数分待ってバタバタと遠くの方から聞こえてくる、相変わらず大自然に真っ向に中指立てていくような爆音だな、つい先程まで自然の凄さを噛み締めていたのに科学の凄まじさを感じてしまう、発達して宇宙にすら手を伸ばした科学と雄大な自然、どちらが凄いのかね。
まぁ比べようもないが少なくとも美しさなら後者に軍配が上がるだろう、科学を突き詰めても機能美ですら自然に劣る、仮に虫を大きくした場合、トンボは世界最高の戦闘機を軽く凌駕するという、極限まで無駄を捨て去り航空力学の全てを注ぎ込み生み出された機械より、自然としてただそこに居る虫に劣る、人間大という部分を問題視するなら万能の機械は存在しないが人間の体はそれになり代わるという点だけで表現可能だろう。
適応性と対応能力という機能美において人間を超越する機械はおそらく存在しない、その人間も瞬発力という機能美なら犬や猫にも劣る、持久力ならそこそこ有るだろうがやはり他の動物に負けるだろう。




