楽に
目覚めと共に朝の予定が頭を駆け巡る、しかし今さらながらだが非日常も非日常だと理解してしまうな。
朝から水抜き漁を済まして石を運んでと世界中を見渡しても同じような生活をしているのは片手で足りるだろう、少なくとも日本国内だと俺と墨巣さんの二人だけだろうな、それを誇る気持ちは全く沸いてこないし誇るようなものですらない。
何処まで行ってもここでの生活は基本的に日常生活で役に立たない物ばかりで自慢になるものすらない、合コンで潮溜まり水抜き漁について語ってもネタにはなってもその瞬間で終わり、それこそ『山登り大好き山尾昇です』よりパンチが弱い。
朝っぱらからテンションを下げつつ準備を済まして磯へと向かい漁開始だ。
水抜きと平行してロープを手繰り寄せる、なんと言うか自動って本当に凄いな、これが手動だと朝からかなりの体力を消耗して作業効率が下がる、本当にサイフォンを思い付いたのは天啓としか言いようがない。
惜しむらくは海水をそう低くない頻度で味わうって点だな、何かもっと楽な方法とか無いのかね、確か大気圧がどうとかだったと思うんだが、時間的に余裕は無いが少し実験してみるのも有りだろう。
とりあえずとして漁を済ませる、本日の成果は潮溜まりが鰯、竹筒がタコ、魚籠は空だった、それでも墨巣さんの黒鯛も含めると相変わらずの十分な量だな。
さて、墨巣さんに魚を押し付けて実験だ、適当な潮溜まりにホースの片側を入れてそのままもう片方を外側に出す、当然ながらこの状態だと水が出る筈もない、ホースの中を水が満たせば良いのだから水に浸けてから引き出して見るがこれでは意味がないな。
となると出口、或いは入り口を塞いで引き揚げれば中は水で満たされたままになる筈だが、試してみれば自動で水が排出されるがすぐに止まる、まぁ水の中に入れている側が動いて水面に出たし仕方がないか。
しかし間違いなく水は出た、今度は普段と同じく固定してから試してみれば勝手に水が抜けていく、これは革命だな、多少の手間はあるが海水とご挨拶する事なくサイフォン効果が得られるんだ。
手順が変わる事で多少まごつくかもしれないが大きな進歩だし慣れれば良いだけでプラスの方が大きい、しかし視野が狭くなっていたと言うか思考停止していたと言うか、現状に満足して実験すら行わないとはな、自分の事ながら嘆かわしい、それでも今気付けたんだ、もっと後よりはマシだし良しとしよう。
しかしもう少し実験もしたいがこれ以上を求めるにしても前提としての知識が足りないな、とりあえず水を満たした上で入り口より出口が低ければ水が出るというのは確定として水を満たす方法なんて吸い上げるか沈める以外に思い浮かばない。




