わらしべ
昼食を挟んで作業を進めつつ編み込んでいく、そろそろ本体は完成して蓋に移れそうだな、このまま蒸籠にまで手を伸ばしたい所では有るのだがギリギリなんとかなりそうだな。
「そのまま祖母と出会って親父が生まれて、とまぁ大まかな人生は一部を除いて普通の爺さんだな」
本当に一部の例外を除けば何処にでもいる狸爺で物凄く優しいでも厳しいでもなく、本当に普通の人だ。
「じゃあいよいよ例外の部分になるけど、残念ながら武勇伝を全て知っているわけじゃないから一部だと思ってくれて良い」
「まずは解りやすい所でモーター開発への投資だな、当時はただの中小企業でしかなくて落ち目も落ち目、倒産まで半歩って会社に曾祖父から借りた金の九割注ぎ込んで寿命を数か月伸ばし完成したのが小型で強力で効率の良いモーターで今だと後継機が当たり前のように電機自動車の心臓になってるな、当然ながら注ぎ込んだ資金は余裕で回収、その上に今では世界的大企業の一角を担う会社と強い関係を結んでいるし今でもその会社の開発に投資してる」
「続いて投資したのがかなり荒々しい使い方でも問題なく稼働するギアボックスとオイルだったか、砂漠だろうが北極だろうが海水の中だろうが稼働する頑丈さで、しかも内部に砂粒一つ入り込むのは相当な骨を折る必要があるってくらいの密閉性、ロケットや航空機や深海調査船、戦車とかにも組み込まれてるらしいがとにかくタフで初期ロットがまだ現役らしいが流石に眉唾だろうな」
「その他にも防弾ガラスとか防犯ガラスとか、特殊なアクリル板とかカーボンワイヤーのローコスト化とかいろいろと手を伸ばして、最終的には軌道エレベーターにまで投資しつつそれまでで培ったコネを使ってと八面六臂だ、モーターはエレベーターに必須だしギアボックスも建築に必須、ガラスは言うまでも無いしワイヤーもまた必要だ、まるでわらしべ長者よろしくドミノ倒しの様に軌道エレベーターっていう帰結に行き着くウルトラCを決めたよ」
「狙ってじゃなくて?」
「本人曰く狙ってじゃないらしい、その時その時に合わせて投資していったらそうなったらしい」
天運持ちの恐ろしさは短期での成果より長期での帰結にある、例えば曾祖父の前の天運持ちは三百年程前に生れた土地転がしの天運持ちだが、その頃にジョークグッズ的に販売されていた月と火星の土地を購入していて今日という日もまた我が家の土地として空の果てに浮かんでいる。
別にそれだけなら普通と言って良いかは不明として当時は買った人も多く居た筈だ、ただ三世紀先の未来で宇宙がより近くなりテラフォーミングとまでは言わなくともちょっと遠い観光地として月の開発が決定しているし将来的には火星も目標の一つだ。
それ自体も流れの中で普通に行われるだろう、それでも買った土地のど真ん中に開発基地を作り、将来的には短期滞在できるようにするなんて予測できる筈もない、無いのだがまるで知っていたかのようにピンポイントで月の正面と裏側にある建造予定地を所有している。これはもうオカルトと言う以外に言い表しようがないし、間違いなく当時の天運持ちも『そんな事予測できるわけがない』と言う筈だ。




