僅かでも
無理矢理に近い形で焼き干しを腹に納めてそのままテントに戻って体を横にする、墨巣さんもおそらく焼き干しで夕食を済ますんだろうが、もはやそこに気を使う事すらできない、こうやって思考を巡らせる事すら面倒なくらいで感覚が間延びしてきている。
心地良いとは言えない睡魔に体を委ね、それでも浅い眠りによる混沌とした思考と意識の喪失を繰り返す。
寝れば多少は回復するとは思っていたが劇的に回復したな、根気とか気力とか精神的なエネルギーだからな、大抵は一晩寝れば回復する、肉体的なスタミナなら数日は掛かるんだが精神的な部分となると度重なる座禅やらで鍛えられたのかね。
或いは一度底を見たからさらに鍛えられている可能性は高い、精神的な物は器に例えられるがさらに深く大きな器に変わったんだろうな、まぁ中の液体か個体か、まぁ液体として満タンではないし、尽きたから大きな物になるというのは意味不明ではあるが、たぶん気にしだしたら切りが無さそうだしスルーしよう。
さて、朝の漁に向かうとして、墨巣さんとの協議は必須だな、とは言え対策はもうない、警戒網を増やしたところでたかが知れているし篝火なんて焚ける筈もない、残念ながら何かしらの対策は存在していない。
まぁ比較的プラスな面としては二度ともニヤッと笑って去っていったって点だな、少なくとも威嚇などの敵対的な行動をスマイリーは執っていないし、あれだけの距離に居て触れてはいない、彼は彼で理性的というか、俺たちに興味は持っているらしいが害意は少ないと見える。
それでも怖いものは怖いし過信できるようなファクターではない、相手が人間でさえ意図は読み取れても本心は解らないんだ、霊長類ということ以外に接点のないゴリラとなると意図すら不明だ。
ただひとつ確かに言える事として彼のテリトリーの中に拠点は入ってしまっているし彼は俺を視認した、これからは定期的に近くに居るだろうし、今更シェルターに移動してもあそこはあそこでスマイリーと初めて会った場所で、なら他はとなれば移動はできるだろうが最終的には移動しては見付かってのイタチゴッコにしかならないだろう。
ならばまだ対策を取っている今の拠点の方が僅かだがマシだ、少なくとも移動して無防備な状況というリスキーな場面は起こらない、相手は比較的穏和な感じのあるスマイリーだけではなく熊も居るからな、正直に言って拠点を移動というのはあまりにも危険だし先んじて場を整えるにしても竹を運んだりとかなり大変過ぎる。
それだけの労力を使っても一月稼げるかどうかでなんなら数日は掛かるだろう準備期間で見付かる可能性もある、基本的に博打なら勝ちを引き寄せる事はできるが正直に言って長期戦というか、無限ループを繰り返すのは無理だ。




