久々
仮想敵である望との一進一退の攻防に時間を裂き、ようやく俺の負けで決着が着く。
うん、なんというか中盤にクイーンを捨ててナイトを取ったのが響いたな、相手の猛攻を防ぐために必要な犠牲だったが流石に質も手札が足りずにじり貧に追い込まれたところで投了する事しかできなかった。
ポーンがプロモーションできそうだったとは言え流石に冒険が過ぎたかね、まぁミスで言うなら序盤で中央の守りを疎かにしてキャスリングしたルークを前進させる事ができないまま消極的になった点だろうな、俺の得意分野は守り主体とはいえある程度攻め手がいないと囮やらブラフやら搦め手に持ちこみ辛いから守りきれない。
さてまだまだ時間はあるが何をして潰すかな、流石にもう一局って気分でもないし漁までとなれば一時間半はある、かと言って作業は止めておきたいし、昼寝をするには少々と言わずに暑さがキツい。
テントに引きこもるにしても風の通りが悪く影になる以上に涼を取れそうにないし、水浴び辺りが無難かね。
拠点を離れて池の近くの水浴びポイントに向かい服を脱ぎそのまま水の中に体を沈めて汗と共に体に残る熱を流していく。
相変わらず水は冷たいがこの冷たさが最高に気持ちいい、春先は指が凍えるかと思えるような感覚だったがこの時期だと本当にありがたい、ただあの頃に比べて少しばかり水温が上がっているような感じがするのだが陽射しのせいかそれとも地下水の温度が変わったのか解らないが、それでも十分に冷たくて気持ちいい。
ある程度熱が引いたところでシャンプーを済まし、体を石鹸で慎重に洗うがものすごく痛い、日焼けに響くね全く。
それでもなんとかスッキリして服を着込み、さて拠点に戻ろうという段階で、ふと、本当にふと視線を感じた。
墨巣さんが覗く筈もないしそもそも筋肉質とはいえ男らしいとはあまり大声で言えない体型の俺を見ようとは思わないだろう、そもそも方向が拠点とは逆で川の対岸からだ。
ならば鹿か狸辺りだと信じつつ視線の方向に慎重に目を向ける、淡い期待というやつはシャボン玉よろしく弾け飛び、太い両腕と握り拳が目に入る。
ここから目を上げれば間違いなく彼がそこにいるんだろうが目を合わせてというのもマズイ、このままゆっくり後退だな、ゆっくりと後退していけばそれに合わせて向こうは前進してくる。
数歩で岸にまで到達し、そのままやや躊躇を見せるように川を覗き込むように頭を下げて、その正体、いやまぁ解ってはいたがやはりスマイリーことロビンソンだ。
見事なまでのゴリラが頭を下げている様はなんと言うかまるで土下座をしているようでどこかコミカルだが全く笑えない。




