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大量の鳴子を製造して山と積み上げたところで墨巣さんに残りを任せつつ俺は俺で昼食の準備に取り掛かる。
この辺りの分担は阿吽の呼吸と言うか、特に話した訳ではないが調理関係は一任されているな、まぁ料理の腕とかを考えると妥当なのかね、家庭料理の範疇を越える物も器具と材料さえ揃っていれば作れてしまう俺と家庭料理のお手伝いの範疇に収まる墨巣さんとでは差は隔絶してしまっている。
俺が墨巣さんと走ってその背中を見ることしかできないように墨巣さんは料理において俺の背中を見るしかない、と言うかこの分野に関しては周回遅れだな。
さて、本日はハゼとハモか、テキパキと捌いてハモは潮汁にハゼは焼いてしまう、しかしハモって磯のイメージが無いんだがな、俺の知識は基本的に鶴子が持ってくる物になるが磯釣りだとクロダイにメジナ、鯛もいけるか、後は希にアナゴにウツボ、カワハギも少しに小魚って感じなんだがな、他にも釣れるらしいが食えないから持ち帰ってこない。
と言うかなぜに俺の所に持ち込むのかねアイツは、実家は食堂だし親父さんが事故って廃業したとはいえ腕は確かなんだがな、まぁ自分で作るよりは良いんだろうが、奴の料理で死にかけた身としては作った料理をお裾分けされるより材料を持ち込まれる方が良いんだが、奥歯に物が挟まったと言うか、素直に腑に落ちてくれない。
盛り付けも終わり配膳も済んだ頃には鳴子が全て形になり山と積まれている、とりあえず午後からはある程度手分けをして警戒網の設置作業だな、このままだと物凄く邪魔だし四分の一程度で構わないから減らしたい。
食事を終えたところで大量の鳴子の一部を背負い北を目指す、途中墨巣さんが張った警戒網を越えてさらに10メートル程、とりあえずここらで良いだろう、既に拠点から50メートルは離れているし音は微かにしか聞こえないだろうな、それでもジャブと言うか牽制にはなるだろう。
ロープを張って鳴子を設置、少しずつ木と木の間を移動してロープを固定し鳴子を吊り下げていく、二人でだと流石にどんどん進みあっという間に持ち込んだ鳴子を使い果たして墨巣さんが取りに行き、その間に俺がロープを張っていく。
あまり離れての作業もどうかと思うがこれから先ずっと一緒に作業というわけにもいかないしな、何より対策となる薬が届いたところで拠点を守る程度の力しか無いんだ、例えばどちらかが何かの作業中に出会うなんて事は起こりうるしそこから拠点に逃げ込んでも臭いという程度で諦めてくれるかは不明だ。
あくまで近寄りにくくなるというだけで我慢できれば拠点だって絶対的に安全にはならない。少なくとも捕捉されてから逃げ込んでも意味はないな、相手が空腹ならなおさらだ。




