熱い冷たい
ありがたい事に向こうの方が勝手に暴れてくれているし勝手に疲労して勝手にがんじがらめになっていくだろう。
幸運とは関係無く高田家を相手にするというのはそういうことだ、数世紀に渡っての盟友に地元を仕切る任侠者、弁護士から行政書士に警察検察裁判官に政治家まで前の二つはすでに勝手に判断して動いてくれているだろうし、後ろの五つは依頼を受けて動き出しているだろう。
表からも裏からもすでに手遅れなくらいには証拠が集まっているだろう、墨巣さんについてか別件かは不明だが少なくとも何かしらの状況証拠が揃いだしているだろうし、最悪でも人となりや交遊関係は出揃っているはずだ。
後はソレらを足掛かりにってところだろう、残念ながら俺達には手を出せないが仮に家に居たとしても無理だろうな、流石に手に余る。
こんな状況をどうにかできるほど、俺はまだ社会を知らないし酸いも甘いも噛み分けていない、誰かに頼る事しかできないし、それを良しとはできないのを理解しているのがなんとも歯痒くて痛い、大学を卒業して、成人して数年、まだまだ子供という事か、ただソレに甘えるほど馬鹿じゃないし何よりこの心に灯る炎はソレを受け入れていない。
熱い男と呼ばれた記憶は一度もないし、激情に燃えるような質ではないと思っていたが考えを改めた方が良いのかね、少々と言わずに好戦的なキライがある。経済を学んだとしては少々と言わずにまずいな、市場を相手に私情を挟むなとは親父ギャグにも似た鉄則の一つだ、まぁそれをどうにかできる奴はいないんだが、恩情とか貸しとか借りとか、そういうしがらみはどうしても出てしまうからな例え祖父でも、或いは歴代の当主でもだ、まぁ我が一族の場合はそれも含めて飲み込む幸運があるんだが。
なんというかまたツラツラと自分の世界で混沌とした思考をグルグルかき回して埋没してしまったな、その間に墨巣さんが友人への伝言とかお願いしていたらしいが右から左に抜けていて、大まかな部分を記憶に留めている体たらく。
しかもそろそろ終わりそうという段階で気付くとか色々と人として大丈夫なのかね、俺は。
気付けばもう電話を切るような段階で、とりあえず頑張るとか、そんな事しか言えずに終わってしまう、なんというか考えに没頭する癖も治した方がよさそうだな。
流石に今から先輩の情報を伝えるのは厳しいし、明日の予定を伝えるだけにしておこうか。
「明日なんだが、全ての予定をキャンセルして熊への対策を打とうと思う、具体的には警戒網の増設だな、とりあえず竹の運搬と加工、北側を張るところまで行ければと思っている、その後はさらに2日くらい掛けて一周ってところだな」
「まぁ妥当よね、正直に言って徹夜でやりたいぐらいだし」
俺も可能なら徹夜という手を取りたいが危険過ぎるし作業も進まないだろうな、明かりの問題を持ち出すより疲れが障壁としてそこにいる。




