カナリア
さて時間的にかなり余裕があるが何をして潰そうかな。
一局指すにはやや足りないしな、昼飯中断を挟んでも良いのだがどうにもやる気が起きてこない、軽く散歩と言うのもアリと言えばアリなんだろうがのんびり歩けば磯に行って少し進んで引き返すのが限界だろう。
となると無駄に動いて体力を消耗するのは下策だな、午後からを考えて過ごすとしようか。
しかし散歩と言うのは悪くない、言い換えれば探索になるし歩くだけなら今の状態でも余裕だ、何より温泉の事を考えると先んじて用意したい物もあるしそれを探しにいく必要もある。
午後からは適当にこの付近で今まで行っていない方向に進んでみるか、正直に言って北東方向が完全に未知の領域だし安全確保の意味も込めて確認もしておきたい。
とは言え山の方向はそこそこ危険ではあるんだよなら島の中心に近付き、森はより深くなる、狸くらいならまだ良いが鹿なんかと鉢合わせると大変だ、裏山に居た奴なら逃げていくしあまり寄ってこないがアレを基準にはできないだろう。
仮に突進でもしてこようなら避けるのが精一杯で当たりでもすれば骨は折れるだろうな、馬ほど早くないし牛ほど重くもないだろうがラグビー選手のタックルと同等以上には衝撃もあるだろうし、あの角を振り回すだけでも高校球児のフルスイングくらいにはなるだろう。
最大限の注意と警戒を持っての散歩か、俺は何処かの戦場にでも出掛けるのかね。
混沌とした思考を巡らせる間に時間は過ぎ去り、いつの間にか戻っていた墨巣さんと共に少し早めの昼食の準備を始める。
串打ちしての焼き魚に煮魚と仕込みつつ用意していく。
「午後からなんだが、俺としては北東方向の探索といきたいんだがどうかな? 疲れが酷いようなら休んでいても良いけど暇だぞ?」
俺個人としては疲労を抱えての作業より退屈を噛み締めて座する方が苦行で、その辺りもまた悟りに至れない理由の一つではある、ただ最近に関してはほぼ無の境地で数時間は潰せるからそれほど苦とも思わなくなっているのだから慣れというのは恐ろしい。
「そうね、身の安全も考えてご一緒するわ」
「うん、なんと言うか人を炭鉱のカナリア扱いするのは止めようか、確かに俺の回りは比較的安全かもしれないけど」
こんな冗談が飛び交う程度には関係も良好で縁を深めている、初めて会った頃は竹銛突き付けられて両手を上げていた事を考えると相当な進歩だな。
さて装備を揃えて出発といこうか、とりあえず2時間程進んでみようかね。




