問題と対策
曇り空を睨みつつ、拠点に戻る途中で折れた枝を発見した。
腕や肩が触れて折った枝なら何度も作っているし、切った枝も大量に作ってきたが、俺が作った物に比べて範囲が広く、折ったというよりは枝先だけを選んで採ったような印象を受ける。
狸の仕業にしては位置が高い、と言うか俺の目線くらいだから高さにして1.7メートル、並みの動物じゃあ届かない。
間違いなく大型の動物だろう、可能性は幾つか思い浮かぶ、普通に考えて鹿や馬、牛か熊あたりだろう、象とかキリンなら笑えもしない、と言うか一応ここは東京都なんだがな、番地もナニもないけど。
また新たな痕跡だ、今までの物から大型の草食動物かツキノワグマあたりだろう、仮に海を泳いだとしたなら凄い根性だ、生命力がどれだけ強いんだという話だ。
だが、今にいたるまで姿を見せていないし、鳴き声や足跡も見ていない、この二つが判ればかなり絞り込めるから残していってくれるなら良いんだが。
いずれにせよ、彼らの縄張りに飛び込んだのは俺の方だ、よそ者は俺で敵は俺、彼らからすれば土地の所有権なんていうのは紙くず同然で、人間なんてのは片手間に圧倒できる存在でしかない。
極端な話として、人間は生物としてはかなり弱い、本能なんて物を捨て去り知識と技術のみを頼り進化してきた生物で、本来なら一方的に狩られる側でしかない。
ならば、何故ここまでの栄華を誇るか、と問われれば、やはり知識と技術である。力で及ばないなら武装しよう、瞬発力で劣るなら罠を張ろう、スタミナで劣るなら強固な壁を築こう、他の生物が持ち得ない一個体が多様性をもって対応し順応し、対処できる能力、その一点のみだ。
等と意気込んではみたが、現状で取れる対策なんて、たかが知れてる。
鳴子による防衛網、これが限界だ、柵を作るには材料が足りず、武器を作るにも作り方を知らない。
オモチャ代わりの弓モドキなら作れるが、飛距離も威力も圧倒的に足りない、今使える武器は手斧とナイフと炎のみ、後は竹槍くらいだが、森の中だと取り回しに不安が残る、時間を掛ければ跳ね罠くらいは作れる筈だが、その時間も何処まであるか判らず、何より相手の出方もサイズも判らない以上は対策の取りようもないのだ。
さて、それでも最低限の対策は打っておこう、何時かは立ち去る拠点かもしれないが居座り続けている現状だと手を打たないとマズイ、野性動物は音や匂いに敏感でしばらくは近寄って来ないだろうがそのうちに慣れてくるし、興味を持たれたら後は一気に動き出す。
とにかく、今の時点でできる最善を尽くそう。




