通達ミス
美味しく魚を食べ尽くして後片付けも済んだし後は寝るだけだな、見上げると月はいい感じに欠けてきている、来週にはお楽しみの新月の夜がやってくる、墨巣さんが来てから初めての天体観測、晴れて欲しいな、ぜひともあの光景を見てほしい。
世界観も価値観すら変わるあの星空の雄大さを、あの美しさを、惜しむらくは俺が星座に疎く解説できない点だな、でもいつの日か、これは墨巣さんとは無関係になりそうだが、望と一緒に星を見に行きたいな、できればこの島でゆっくりとコーヒーでも飲みながら。
星を愛する彼女なら外光に邪魔されず空気も綺麗な此処を気に入るだろう、普段から山には上っているしゴリラとか鹿とか全く気にしない筈だ、その時は山登りになるから昇も連れてきた方が良いのかね? この島の山々はおそらく100年は誰も登っていないし下手をすれば未踏峯の山々だ、そんな話に加われないとなれば後が煩いだろう。こうなると鶴子もだな、絶好の釣り場を無視して俺達が山登りに苦心したと知れればガチギレる、後は誰か居たかな? 類友で変り者の知りあいは多いが突出した変人は俺を含めた四人くらいだし居ないだろ。
「ねぇ探索の事なんだけど私も行くわ、流石に距離が離れすぎると怖いし、二人ならカバーできる範囲が増えるでしょうから死角も減るもの」
俺が旧友に思いを馳せている間も墨巣さんは悩んでいたらしいな、まぁ作業を進めるか安全を取るかの二択なら即決即断なんだがな、墨巣さんの場合はその辺りの心構えはまだできてないらしいし、思い返せば言葉足らずでもあった、その辺りのフォローもちゃんとしないとだな。
「あぁ、済まない言葉足らずだった、元々墨巣さんと一緒に行くつもりではあったんだ、だから報告というより決定事項として伝えるべきだった、申し訳ない」
素直に頭を下げる、多少慇懃無礼なのは俺が治すべき悪癖だな『もっとちゃんと【ごめんなさい】が言えるようになれ』と祖母にも言われていたんだがな、どうやらまた俺の横柄さが顔を出しているらしい、これは早いうちに治そう、じゃないと自分の首を絞めることにしかならいぞ。
「そうなの? なら早く言ってよ」
「本当に申し訳ない、とりあえず罰代わりに荷物持ちは引き受けるよ、いやどっちにしても引き受けるつもりではあったけど扱き使ってくれ」
それこそ拾った物は全て抱えるくらいの事をしないと本当に申し訳が立たない、馬車馬のように扱き使うくらいでちょうどいいと思うのだが。
「いや流石に荷物全部持ってるといざという時に動けないじゃないの、謝るのも良いけど苛烈過ぎて引くわよ、だから普通にお願いね」
凄く大人な対応をされてしまった、過ぎたるは及ばずという言葉を思い出す、なんと言うか卑屈になりすぎている感がある、本当にどうにかしないとだな。




