怒り
「ああ、すまない、どうにも一人でいたときの癖と言うか感覚が抜けきってないらしい、ただ火に油を注ぐ覚悟で言うが、少しばかり甘い、音がしたなら鉈やら竹槍やら構えて最大限に警戒した方がいい、いくら君がトップアスリートで反射神経に優れているのだとしても初動の早さが必要になる瞬間は有るんだから」
やってしまったな、鶴子のトサカ頭なら激情してキレるだろう事を言ってしまった、それも謝罪の後で悪びれもなく続ける形でだ。
溝が生まれてもおかしくはないし、これでは逆ギレのようなもので問題しかないぞ。
「えっと、コレ私は怒っていいのよね? 余りにも余りにもで判断に迷うんだけど」
「怒られたくはないが怒っていいんだろうさ、ほとんど逆ギレみたいなものだしな、自分で言うのもなんだが使う言葉とタイミングを誤った、重ねて本当に申し訳ない」
キョトンと言うか理解に苦しむといった様子の墨巣さんの問いに対する答えとして、さてどうなんだろうな、正直に言ってミスってばかりの気しかしない。
「そう、ただ変に迷ったせいで怒りよりあきれが強いわ、軽薄とか頼りなさとか以前に貴方の人間性を疑い始めてるんだけど挽回できそう?」
そんな本当にあきれ果てたと言いたげな様子と口調に、さて答えは熟孝すべきだろう。
「難しいだろうな、既に墨巣さんには貸しが貯まっているような有り様だし、ただまぁやれるだけの事はやるさ」
決意表明にしては軽いように思うだろうが、残念ながら言葉を重ねるより行動した方が今回の場合は有効で最短ルートだ、と言ってもやはりやれる事に限りは有るから毎日毎日、微々たる返済となるだろうが踏み倒すよりはマシだ。
「そう」
たった一言が痛いな、しかし甘んじて受け入れよう、これも俺が新たに背負う事になる業の痛みだ。
会話でやや時間を消費したがまだ余裕はある、警戒網の設置とロープを解く作業、二手に別れての平行作業で進める。
俺はロープを解く方になる、結んだのは俺だし、いくらコツを教えたところで掴むには時間が掛かるし切るかどうかの判断も俺の方が早いだろうという確信からなる分担だ。
墨巣さんの方は前に解いたロープと持ち込んだロープを使っての警戒網設置作業で、ひたすら木にロープを結んでは鳴子を設置する作業を続けている。
なかなかに固く結ばれたロープは躊躇なく切り離し、長さを調整しつつ鳴子共々回収していく。
少しずつ進むしかない辺り歯痒くて堪らないが仕方がないと言うか、諦めて淡々と作業を進めるしかない。
ある程度の所で切り上げて墨巣さんに声を掛けて作業を終えて拠点に戻る、さてこうなると明日休みにくいんだがどうしたものかね、適度にサボってスタミナの温存がベターなんだろうが、割りとキテるしな、無理をしようものならそれはそれで問題にしかならない気もする。




