ミス
焼き魚と煮魚に炙った焼き干しの昼食を済ませて昼からの作業に挑む。
っと、その前に作った鳴子を墨巣さんに渡しておいた方が良いか、とりあえず作った分だけでも足しにはなるし、作業が早く進む筈だ。
墨巣さんに声を掛けて建築現場に向かい二人して抱えられるだけの鳴子を抱えて来た道を引き返して墨巣さんの作業現場に転がしておく、なんとか一度で運び込めたようで一安心だな、付いてきてもらって正解だった。
後を任せて建築作業へと向かう、さて、今日中にはほぼほぼ終わるだろう、と言っても隙間が開いた残念な物ではあるから完成と呼ぶにはまだ少し早いが。
ひたすら渡しては結び渡しては結ぶ、柱の部分は大きく隙間が開いているがそこは太めの竹で上手く埋めれば良いし、一先ずはあと回しだな。
休憩を挟みつつ一段目、隙間だらけの屋根が完成した、後は埋める作業を進める訳だがどうだろう、三段重ねくらいで十分だよな? 一応角度は付いてるから隙間に流れ込むよりも下方に流れる方が多いだろうが二段だと少し心許ない、それこそ四段くらい重なれば安心なんだが、今度は重さが気になるしな、やはり三段がベターだろう。
引き続き作業を進めるがスピードは低下している、染み付いた疲れが動きを阻害し思うように体が動かない、何より首が痛くて捗らない、少し早いが切り上げて墨巣さんの手伝いに行くとしようか、流石にこれ以上続けても辛いだけで進まないしな。
作り出したそこそこの量の鳴子を首やら腕やらに掛け、抱えてカラコロカラコロ鳴らしながら森を進んでいく、なんか熊鈴付けてる感じだな。
つい数時間前に墨巣さんと別れたポイントには誰もいない、まぁ数時間も有れば進むよな。
どうやら警戒網の設置もしだしたらしく元の場所より外側に張られたロープには鳴子が設置されている、前の物との間にできる隙間が問題となるがそこはどうしようもない、歪な形にして防ぐ事も可能だが手間が増えるだけで安全は確保できてもそれ以外のデメリットが大きすぎる。
さて、ロープが伸びている方向からしてこっちだな、声を掛ければ良いだけなのだがそんな気力が湧いてこない、不精で申し訳ないが余裕を持てそうにない。
十数分程進んだ所で墨巣さんの背中が見えてきた、まぁロープを解いては結び直して進む距離としては妥当な所か、それでもそこそこの距離は進んでいるし、このペースなら一週間も有れば完成する筈だ。
「やっ、少し疲れたから切り上げてこっちに来たんだけど、何か手伝える事はある?」
軽く声を掛ける、軽薄ではあるが重苦しくする場面でもないしな、この辺りの会話の起伏の付け方はようやく思い出してきた、ただまぁ正解ではないんだろうし、そもそも正解がないんだろうが。
「貴方ね、さっきからカラカラカラカラ、ゴリラが出てくるんじゃないかとヒヤヒヤしたじゃない、せめて声を掛けながら来るとかできたでしょ」
そんな怒りの言葉で選択をミスった事に気付く、こうなると先程の軽薄さが油を注ぐ行為でしかなかったと後悔しきりだが引き返せないしな。
しかし、なるほど、確かに警戒網の近くで鳴子の音がしたら普通は何かが来たと思うよな、アホが鳴子抱えて現れるなんて誰も思わない、本当に申し訳ないことをしてしまった。




