とんでもない才能
「そう、じゃあ次ね」
そう言って案内してくれた先に有ったのは何処にでも有りそうな植物だ、ただまぁ、なんと言うか花の蕾のような、まるで球根が茎の先に着いたような形状で、それが蕾でない証拠として下部に枯れた花びらの残骸が残っている。
「コレまた珍しいな、うちの裏山だと2~3年に一回お目にかかるかどうかの厄介者じゃないか」
そんな驚きを持って観察を続ける、時期的にこの状態はもう少し先だったと思うのだが、やはり南国だからか数週間早いらしいな。
「厄介者って事はまた毒持ち? タコと言いキノコと言い私の目利きはどうなってるのよ」
そんな憤慨は理解できなくはない、もはや才能だなコレは、あまり褒められた物ではないし欲しいものでもないが。
「毒ではないな、むしろ食える、ただまぁ、ちょっとばかし事情が特殊なだけだ、コレはケシだな、種類までは解らないが間違いない」
けしの実は主にあんパンとかの上に乗っかってる胡麻より細かい香辛料と言うか添え物だが、問題はソコではない、コレが食べられるかどうか自信はないな、墨巣さんが見付けた事を考慮するとむしろ危険な気配しかしない。
「ケシって、あのケシ? この流れだとパンに乗ってる奴じゃない気がするんだけど」
「まぁそうだな、普通に麻薬的なアレだろ、家の裏山に生えてるの見付けたらどっちにしろ駐在さんと一緒にまた登らないといけないから厄介なんだよ、しかも家の山、昔の名残で麻とかも生えてるし面倒で面倒で」
「一応説明しておくと我が家の裏山は江戸の辺りから麻布を作るために麻畑が有ったらしくてな、ケシもその流れで隠れて植えてたという話もある、まぁ当時は合法だったり違法だったりを繰り返していたようだが、その名残か数世紀経った今もヒョッコリ顔を出してきてる、変な奴が近付いたら事だから根絶やしにしたいんだが無理だしな、いたちごっこを続けて何代目か見当も付かないよ」
墨巣さんの問いにそんな答えを返す、数年に一度は県警から数十人がやってきて山狩りとかやってるんだけどな、どうしても何処からともなく現れる、かと言って見て見ぬフリをしようものなら増えるだけで解決にならないしな、本当に厄介者だ。
「えっと、スルーしましょう、アスリートの端くれとしては賭けるにも分が悪いし、後々変な疑惑とか御免だわ」
まぁコンプライアンスと言うか、理念とスポーツマンシップに則るならノータッチが賢い選択だな。
残念ながら食糧の追加とはいかずに焼き干しを使いきる事が確定した、まぁ野草はそこそこ生えているし、地味にクローバーとかも見掛けたりしているんだが全く無視してるんだよな、それこそ拠点近くの川沿いを歩けば食べられる野草は幾らでもある筈なのだが散策すらしていない。
そろそろそちらも考えていった方が良さそうだが他の作業が累積しすぎて手が回らない。




