痕跡
樫にブナに椎、ドングリが取れる木々で秋には食料となってくれる事だろう、昔は良く裏山から拾って灰汁を抜いて食べていた、まぁ野イチゴとかの方がメインで、オヤツとしては普通にお菓子とかの方が多かったが。
それでも山の恵みの一つとして楽しんでいた、まぁ好きか嫌いかで問われれば『嫌いではない』の一言に尽きるのだが。
道々の木々に辟易とは言わないが飽きつつ、それでも野草のチェックをしながら森を進む、時間的にもそろそろ海に出るように方向転換しようとコンパスを確認し、顔を上げた所で入ってはいけない物が目に入ってきた。
樫だかブナだか知らないが、そこそこ長生きであろう大木に傷がある、何か固いものを擦り付けたようなような傷というか跡で、間違いなく動物が体か角かを擦り付けた跡で、おそらくは俺の荷物を荒そうとした奴の仲間であろう。
解りやすい痕跡を残してくれたものだと辺りを確認するが、見た目からして古傷だったようだし、毛や足跡のような痕跡はない、有れば大まかなサイズや種類が判ったんだがな、それでも傷の具合からして年単位ではなく月単位だろうと推測できる。
一つだけ判った事として、確実に何かが、それも犬とかより大きな生物が住み着いている、という事実であろう、或い(あるい)は風の影響で枝がズレるなりして段ボールが歪んだのを勘違いした可能性も考えていたのだが、完全に否定された。
一通りの確認を済まし、今度こそとばかりに海に出るルートを進む、ルートと言うか方角に進んでるだけなんだが。とまれ数十分で森を抜け、海岸を東に進む。
相変わらずの変わり映えしない景色は、海も森も同じらしく、砂浜だったり岩場だったり、はたまた土だったりと登り下りすら織り交ぜた複雑怪奇な地形を進み、道すがら新たな漁ポイントがないかチェックを入れつつ、漂着物の有無も確認しつつ、食料探しに勤しんだ。
本日も火を起こし、捕らえた魚に串を刺して直火で焼く。本当にそろそろ野菜が欲しいのだが、どうにも山菜や野草が見付からない、茸なら多少は生えていたのだが、茸は毒の有無の判別がプロでも難しいと聞くし、山菜採りの名手と言われた祖母も茸には手を出さなかったし、茸採りの名手とされた御近所さんのお爺さんも何度か毒茸にやられたらしい、死なない程度の物ではあるが見た目やなんかでの判別は難しいらしい、美味しい毒茸なんてのもあるらしく、かなりの危険物である。
知識のない俺が手を出して良いような物ではない、大人しく野草や魚で手を打った方が楽だし確実だ。




