怪物
高校時代は様々な運動系部活の助っ人に勤しんでいたと言うし、それらでもそれなりの結果を出していたと聞いた、曰く『体を動かす事で私にできない事はない』と。
水泳、陸上、ボクシング、それらでインターハイに出れるレベルの能力を発揮していたらしい、特に陸上は全国を制した程で、水泳は地方を制したレベル、ボクシングは地方大会敗退だったか、しかも大会前の数ヵ月足らずの準備だけでだ、数年がかりで練習した人物を馬鹿にしているようだが、彼女の身体能力の高さとセンスは天才なんて言葉を軽く凌駕している、ボクシングで勝てなかったのは単純に経験の差と思い切りの無さ等が理由だろう。
勿論陸上競技はただ走るだけではないが経験で言うなら日常的だし、彼女なら1ヶ月も有れば掴めるだろう、なんというか彼女を言い表すなら天才より異才、異才より怪物、そんな感じだな。
「なんというか流石だな、覚えるだけでも面倒なくせに効果はラジオ体操と似たり寄ったりのストレッチ未満なオリジナル体操を見ただけで思いだすとか普通は無理だぞ」
そんな感想を告げてみる、俺なら忘却の彼方に放り出しているだろうし、思い出したとしてもトレースできずに諦めるだろう。
「まぁ一度覚えた動きだし、体が覚えてるのよ、流石に細かい部分は見て覚え直した感じだけど」
それでも十分に凄いと思うのだが、そこを突っ込んでも意味はない、それより何より目の前の焼き魚だ。
いい感じの焼き加減を見極める目はすでに極まっている、ここを逃せばという完璧なタイミングで焼き上げた魚を頬張る、やはりこの瞬間だけは疲れとか気の張り詰めとかそういう物が消え去るな。
魚を丸かじり、ではなく箸を使って小綺麗に食べていく、本当に地味な所では有るが進歩したものだな、串刺しにした魚を丸かじりしていたのはほんの一月くらい前なんだがな、気付いた時には竹製の食器が揃っていて、かなり充実している。
野性的な生活から多少は現代的になったな、サバイバル中では有るのだがやはり食事中だけは全てを忘れてしまう、折角の食事を楽しまないのは祖母の教えに反するしな。
腹も膨れた所で作業の続きといこうか、高い位置の枝を重点的に切り落としたおかげで残る作業は大した事ないし、サクサク片付けてメインイベントに取り掛かりたい。
枝を切り落として最終チェックを済まし、いろいろと片付けてから作業に取り掛かる、斧を降り下ろして受け口と追い口を作り、少しずつ追い口に深く斬り込ませる、ここまで太い木となると流石に時間が掛かるな、慎重に慎重を重ねた作業だから当然だが2時間半も使ってようやくと言った感じだ。
斧の一振りと共に軋んだ独特の音がしてベキベキと緩やかに動き出す。
「倒れるぞ」
大声で叫んで注意換気をしつつその場を離れて安全の確保をしたとほぼ同時にズドンと地面に倒れ込む衝撃と音が鳴り響く、ようやく斬り倒せたがここからが面倒なんだよな。




