森を歩く
当たり前だが早々に重要な物が拾える筈もなく、這う這う(ほうほう)の体とは言わずとも肩を大きく落として帰路を行く。
気分転換とばかりに本日の昼飯を少しだけ豪勢にしようと決めて、火を起こして中華鍋を置く、この鍋を置くために配置しておいた石もようやく日の目を見れるかと感慨深く石を見つめてみる。
お湯を沸かしながら小魚の内蔵を処理し、湯引きで臭みを取る、後は酒と醤油を同割りで入れて水で少しだけ薄め、小魚を投入し、少しずつタレを絡めながら煮込んでいけば完成だ。
本来なら生姜か梅干しでも入れたいのだが、今日は我慢だ、二本もある醤油と違い貴重な料理酒を入れただけでも贅沢なのだ、と自分に言い聞かせ、慰めるとしよう。
さて、久々に作った煮魚はやや変則レシピでは有ったが美味しかった、祖母直伝のレシピだと小魚の煮物には針生姜か山椒と少量の砂糖を入れた釘煮や佃煮風が基本だ。
最近は煮魚を作っていなかったため、いささか以上に心配は有ったが体と舌は覚えていたらしい、大学時代は割りと手間を省いた簡易レシピで料理してたし、実家じゃ母さんの手伝い以上の事はさせて貰えなかったからな。大学が遠いからと下宿を見越して、中学時代から料理を仕込んでくれた亡き祖母に感謝だ。
まぁ大学に弁当持って行ったら同じサークルの女子に目の敵にされかけたが、あのサークルはハズレだったな、直ぐに別のサークルに移動したから、被害らしい被害は無かったし移動先では先輩からもレシピを教わったりできて、かなりのコミュニケーションツールに化けてくれた。
さらに言えばサバイバルの今でも有効に使える、自分で採ったフキの煮物を作れる奴なんて同年代じゃ中々いない筈だ、少なくとも魚を捌くのに忌避感はないだけ有効活用と言えるし、魚の絞め方すら教われなかった。
閑話とも言えない思考の迷子もこのくらいにして、昼からは予定通りの探索に入り、山菜でも見付けられたら上等だ、最低でも何かは見つかるだろう。
とりあえず、この付近の森を探索しながら西に進み、後はいつもの磯を経由して拠点に戻るルートを選ぶ。
変わり映えしない森の中をコンパスと木々の隙間から見える山を頼りに進む、カルデラ型の山らしいから最高峰が何処かは不明だが目安くらいにはなってくれる。
別にルートを開拓する訳でもないため枝払いを最小限に抑えつつ、それでも歩きやすい程度には払いながら森の木々を観察する。
祖父の言ったようにブナの仲間が多いらしく広葉樹林で、特に目立った何かは見えない、少なくとも百舌鳥はいないらしく、今日まで早贄を見ていない、代わりに魚臭い鳥の糞が多少はあるため、海鳥が住んでいるのは確定だ、後はチュンチュンピーピー鳴く謎の鳥だな。




