ロマン
祖父の考えを読めた例は一度も無いがそれでも思考を続けたい、何かしらの意図が無ければこんな事はしないだろう、しかも昨日は現実を叩き付けている、この用紙を作ったタイミングは解らないがそこまで急激に考えを変えたりしない筈だし、一貫性に欠ける。
俺みたいにのらりくらりと思考を巡らせてその時その都度その度に結論を変えるようなタイプではない、筋金入りの頑固爺が打つ一手、さて難題になりそうだが一先ずは置いておこう、とりあえず今は残りの作業だ。
「えーっと、後は全ての物をクリアケースに入れてドローンにセット、指定の連絡先に電話、尚ドローンから離れた位置に立つ事、また上部に十分な開口部のある場所で連絡する事と」
墨巣さんにクリアケースを任せてドローンの準備に取り掛かる、おおよそ着陸した辺りからなら離陸も可能だろう、クリアケースを受け取り下部にしっかりと固定して少し離れる、後は電話だな。
解説書に書かれた番号をプッシュして二度ほど誤りが無いかを確認してコールした。
数度コール音が鳴り響くが全く出る気配がない、まぁ海を越えるのには流石に3時間以上は掛かるだろうし、オートパイロットだろうから待ち時間の長さはどうしようもない、余りの暇さに昼寝でもしているのかね。
全く出ない相手にヤキモキするなか、ドドドッとエンジン音が鳴り響いてプロペラが回り始め、ツーツーと向こう側が着信を拒否した音も鳴り響く、コールだけで状況判断とは、少し待ってくれとかならどうするつもりなんだろうか。
そんな事を思案する間に機体が持ち上がり、そのまま木々の隙間を、まるで見えているかのようにすり抜けて空を登っていく、実際に見えてるんだろうな本体上部にもカメラ付いてたし、赤外線飛ばして対象との距離を計り障害物をすり抜けながら飛ぶとかも装備とプログラム次第では可能だろうから後はAIさえ優秀なら遠隔でスイッチを入れるだけで良い、特に今回は極端に重い荷物を運ぶ訳でもないだろうからそのくらいの余裕はある。
それこそ明日も運搬するわけだから荷物を分けることも可能だし、明日は認証機器は積まないし小型で重そうには見えなかった、ならスペック上昇のためのオプション装備の余裕は捻出できるだろう。
あるいは若干の誤差のある映像を見ながら操作する神業的な技術を持っているかだな、個人的にはこっちの方がロマンが有って良いと思うがさて真実は海の向こうだ。
さて、見送りも済んだ事だしまずはテントの組み立てをしようか、トイレは明日になるが別に構わない、勝手だがそれより何より安眠の方が大事だ。
質の良い眠りを取らないとトイレ作りどころかその他諸々に支障をきたす、後々に恨まれ尾を引く結果になろうともそのデメリットくらいは飲み干してみせよう、後悔する事になったところでその時に猛省する他ない、どちらにしても調整で完成は明日だ、朝には完成するか昼を越えるかの違いでしかない。
だが眠りはほんの数時間後には取る行為で、既に肉体のダメージは無視できないオレンジゾーンに達している、これがレッドに割り込もう物なら全ての作業が中断だ、少なくとも数時間の誤差が1日に延びる、そう考えれば長期的な効果は高いだろう。
我ながら酷い飛躍による理論武装だが、それだけ追い詰められているという事だろう、今倒れる訳にはいかないし無理をするための一手を打たせてもらおう、ここさえ越えれば後はもはや後回しを続けた作業だけだ、ここに至れば数日は誤差の範囲に入ってしまうし、元来が一月単位の計画だからな、遅れは仕方がないと開き直れるのだ、心因的なダメージを考えるとどちらを選択するかは明白だな。




