意図
「次は、抗生物質? 念のために処方したらしい、一応3ヶ月くらい公式試合に出れないらしいけど、後俺の分もあるから一本だけ肩口に押し付ければ良いらしい」
取り出したアルコール綿を受け取り袖を捲って消毒しペン型の注射器を打ち込む、けっこう針が深くまで刺さってる感覚が有るんだが法律的に大丈夫だろうな、完全に医療行為だと思うんだがその辺りはどうなんだろう。
墨巣さんはかなりの葛藤が有ったらしくたっぷり5分使ってから刺してたけど、やはりスポーツマンとしては服薬に慎重になるんだろうな、例えここが無人島で公式試合なんて開催されなくてもだ、と言うか彼女は肺の治療中の筈なのだがその辺りも含めて聞いておこうか、薬が必要なら親父に頼んで処方してもらう必要もあるわけだし。
「えっと、最後の一つは・・・・・・これはゴミだから無視して良いよ」
誰だよ入れたの、いや祖父か親父なんだろうけど避妊具は流石に不味いだろそのつもりはサラサラ無いが誤解しか招かない、枯れている訳ではないがだからと言って誰でも言いわけではない、当たり前だがつり橋効果含めて墨巣さんに恋愛感情を持つとか、持たなくても襲うとか、そこまで飢えてない、そもそも俺は大きい方が好きなのだ。
「ごめんなさい、もう見てしまったわ、なんと言うかエキセントリックなご家族ね」
フォローが痛い、いっそのこと変態扱いされた方がまだマシだ、気を使われているにしてもこんな事で使われたくはなかったな、何より無駄な貸しを作った感がある、あの狸爺と陰薄親父は後でお袋にチクってシメて貰うとして、とりあえず土下座で良いだろうか。
「もう一つ箱が有るんだけどこれはどういう物?」
膝を着いて頭を下げる前に投げ掛けられた問いに慌てて解説書を読む、えっと六番は
「それは必要書類? らしい、特別休学届けの嘆願と特別休学の詳細、その他諸々だそうだ」
弁護士の委託とか、大学への嘆願書とか、或いは我が家との誓約書とか、六枚近い書類に目を通して全てにサインを書いている、なんと言うか紙切れ一枚でいろいろと進む辺りが情緒に欠けるな、風流詫び錆び感じた所で今回の場合は役立たずだがどうにもドライすぎる。
淡々と進める理由は理解できなくもないが現実味が無くなるとほんの数時間前までのように認識できなくなるぞ、そうなるとまたサバイバル生活が単なる日常になってしまう。
俺はともかくとして、当事者である彼女は事態を正しく認識するべきだろう、こんなのは非日常で異常で異様で当たり前と思ってはいけないと、少なくとも何時か思い出す時に笑い話ではいけない、親に殺されそうになるなんて、例えその後が異常でも笑って誤魔化したり茶化せる物ではないだろう。
その危険性を生む可能性をどうして混入したんだ、正直に言って解せない。




