交渉中
「さっきのに加えてバイクが無し、そんな所だろ、これ以上となるとイレギュラーに対する不利益にしかならないし」
ベットするのはバイク一台、新車ならオプション込み込みで八百万近く、都合四回のドローン輸送となら礼金を含めても釣り合って余りある、おそらく関係各所への許可取りや根回しを含めて同等よりやや上回るくらいか、流石にその微量かは不明だが超過金までは請求しないだろうし、奨学金2ヶ月分を考えれば俺の方が当初の予定より損をしている。
いや、俺の財布は開いてないから損という表現は間違いか、今回の場合最も割りを食うのは祖父な訳だし。
「まぁ妥当だろうなぁ、理由付けとして老い先短くて感傷的になったと嘯くにしても落とし所は見せて置かないと舐められて飲まれかねん、苛烈とまではいかんが手心与えたくらいの退きで納得してもらうとしよう」
本当に疲れた様子を見せる祖父がいっそ哀れだな、そう言った後にツーツーと電子音が鳴り響いて電話が切れた事を教えてくれる、またガチャ切りとはお袋が荒れる事になるぞ。
ただその災禍を受けるのは祖父の自業自得というやつだ、いまさらかけ直して油に否を注ぐのもアレだし、無かったものとして流す事にしよう、それにそろそろ眠りたい。
ポタポタと顔を打つ雫で目が覚める、おそらくまだまだ深夜だが新しい1日ではあるのだろう、体感と空の雰囲気からいつも起床する時間より2時間程早い時間帯、一寸先も見えない真っ暗な闇の中、雨が降り始めていた。
よりにもよってと言いたくなるな、せめてもう少し寝かせて欲しかったのだが、シトシトとは言え流石にこんな雨の中、外で眠れば風邪は確定だ、降り止むか朝が来るまで耐えるしかないだろう。
とりあえず雨宿りとして、テントの側を離れて適当な木の下に潜り込み、そこまで濡れていない布にくるまって座り込む、できればもう少し寝ていたかった、スリーピングビューティーな墨巣さんが羨ましいね全く、だからといってキスして叩き起こさないし、やったらその瞬間に骨の数本がへし折られるだろう。
流石に雨の中、空からの運搬はしないだろうから、おそらく昼までには止むんだろうが本当によりにもよってだな、後1日遅いなら俺は自分のテントの中だったのに、とは言えタラレバを言ったところで仕方がない、どうせ今日は大仕事はしないつもりだし明日もまた同じくだ、もう既に取り返しが着かないくらい遅れている建設の事を度外視してゆっくり休むとしよう。
単純に現実逃避と言われるかもしれないが、俺もこの数日でいっぱいいっぱいだ、頑張れと自分を鼓舞しても立ち上がれそうにないし、何かをスタートさせる気力もない。
それならば風流気取って花でも愛でながら心の回復に勤めて混沌とした意識に調和を与え、自転車操業も良いところなスタミナを回復させて未来への貯金としたい。
そろそろ嘆くのはやめにしよう、玉虫色か或いは金剛石の輝きの答えとなるかは別としてポジティブシンキングでいこう、もはや秩序をもった思考ではないが、眠い時ならこんなものだろう、おそらく数時間後には記憶から抜け落ちているだろう。




