のんびりモード
そろそろ寝ようかと寝床の準備をする中で場違いな電子音が鳴り響いて一気に目が冴える。
随分と早いが流石に荷物が用意できたという訳ではないだろうし、イレギュラーの発生かな? そうだとしたらあまり出たくはないが仕方がない、通話ボタンをプッシュするとしよう。
「健太だけど、スピーカーにするから少し待って」
相手の返事も待たずにスピーカーに切り替える、これがもしも他人からの電話なら大事だが、この衛星電話の番号を俺の知り合いが知っているはずもなく、また彼らの携帯番号も覚えていないため連絡の取りようがない、現在俺と外を繋ぐ唯一のツールは実家との連絡をする以外の使用方法がないのだ。
まぁ仮に友人達の連絡先を知っていたところで一人は脳筋の登山バカ、一人は釣りバカで一人は星にしか興味がない、あるいは昇なら登山だけではなくサバイバルの知識も持ち合わせているだろうが、残念ながら1年程連絡が取れなくなる事しか伝えていないし、電話だけでは得られる情報に限りが有りすぎて早い段階でネットとの中継役に成り下がるだけだ。
なにより就職を決めて今まさに社会の荒波に揉まれて忙しい真最中の彼らを頼るのは俄然ニート街道の真ん中に居る身としてはバツが悪い。
とまれ意識を切り替えて集中だ、既に挨拶とか済んでしまっているし、その間無言という親父並みの置物となってしまっている、いや、親父の域にはまだ届かないし届かせるつもりもない、あの薄さは真似するようなものではないからな。
「で、どうしたの? 流石に荷物はまだ準備できてないでしょ? 墨巣さんの件で進捗か後退でも有ったの?」
朗らかと言うか牧歌的なノンビリムードで話し続けそうなお袋と墨巣さんの会話を立ちきって本題に移す、充電は十分にしているし電池切れなんていう重大な問題は起こらないけど、だからといって話し続けるのもなんだ、何より明日に備えて早く寝たいという自分本意で勝手な理由でもあるのだが。
「いや、速達設定で注文したら今朝到着してな、服は奏さんがモールに出向いて買ってきてくれたから直ぐにでも送る事ができる、その連絡だ」
相変わらず凄いなネット通販、これだけ早いと運送業者のバイトも大変だろうに、まぁそれが仕事と割りきるか金の為と割りきるか、何時だか先輩から教えられた割りきる事の大切さを見知らぬ彼らが知って居るはずもないが、似たような境地を持つ人物はいるだろうから似たような理由で頑張る人が多いのだろう。
どうでも良いことに結論がでたが、マジでどうでもよかったな、とにかく荷物の用意が済んだというなら今晩にでも和歌山に配送して明日の夕方には島に着くだろうから受け取りにいかないとだな。
「配送はこの間の船長さんなんだろうけど受け取りの時間とかは連絡してくれるんだよね? 流石に丸1日浜辺に居座れないんだけど」
そう注文を付けて明日の予定を脳内で組み上げる、仕方がないとはいえ建設が止まったままな上にやりたい事が累積中だ、これ以上時間をロスしたくない。




