逃げ道
苦肉の策としてテントに転がるぼろ切れを幾つか使い地面に寝床を作り、体を預けて眠りに着いた。
昨日に比べればまだマシな眠りとなり、疲れも極端に残るという感じではなく少なくとも今日明日倒れるような気はしない。
さて、本日は釣り糸との格闘で潰れるな、墨巣さんも手伝ってくれてはいるが残念ながらまだまだ拾った釣り糸は有る、もはや糸というより毛玉みたいな物もあったりするのだが流石にアレは捨てた方が良いだろうな、有難い事に量は有るし変に時間を使っていられない。
とりあえず朝の漁を済ましてしまう、本日、俺の成果は小魚が大漁に、対して墨巣さんはアジが一匹と振るわずで、それでも二人が食べるには十分な量が捕れた。
昼食までチマチマと釣り糸を解す作業を続け、その間に交わした会話は天気とか今日の予定とかの他愛もない会話で、それも時間が経つ毎に無くなってしまう、もう少し会話を楽しむ余裕が欲しいし、何より仲良く暮らすための方法として会話を弾ませたい物だな。
昼食用に薪を組み上げて準備を済まし、墨巣さんにファイアスターターを差し出す。
「昨日見た通り時間が掛かるけど、良いの?」
「良い悪いじゃなくて必要なんだよ、極端な話俺が風邪でぶっ倒れたり何かしらの理由で拠点にいない時、墨巣さん自身が火を扱えないと冗談抜きで死ぬよ、ここは甘い考えも持てない究極の自己責任の世界だ、少なくとも最低限の生活ができるくらいの技術と知識が身に着くまではスパルタ式よりは甘めだけど教え込ませてもらうよ」
短い問いに対する答えは冷たいと厳しいと言われるような言動で、緊迫感を伝えられたなら幸いだ、まぁこの程度で嫌われたり信用を失う程、まだ親しくないし、失った所で嫌われた所で必要となる技術が身に着くまでは一緒に居てもらう、それは決定事項で、仮に逃げ出すならそこまで面倒を見るほど俺は優しくない。
「逃げ道とか近道って有る・・・・・・訳ないか、このくらいなら部活に比べれば不条理でもないし、教えてもらうわ」
うん、完全に開き直りだな、確かに部活とかならもっと不条理な事を言われたりするだろうし慣れているのだろうが順応性高いなぁ。
まぁこの順応性の高さはサバイバルだと有利に働いてくれる事だろう、少なくとも順応できなければ食うにしても眠るにしても全く堪能できないし休めない、それを考えると初日から十分過ぎる程に順応していたな、本来ならおんぶに抱っこの可能性もあった事を考えればかなり楽ができると喜んでも良いな。
今回は三度目で成功し、美味しい昼食の時間となる、着々と着火の技術を習得していってくれているらしく明日くらいには薪の組み方まで進めて良いだろう。




