挑戦
久々にホースをセットしての吸出し作業は一度の失敗を挟んで自動排出の真最中で、俺の仕事は鍋での掻き出し作業だけ、結局両方やるんだよなと今更ながらにシュールの二重取りを噛み締める。
ただ、俺が必死になる最中に墨巣さんの銛捌きでクロダイが取れている辺りでもうシュールさとかを気にする余裕は掻き消えてしまっていたのだが。
なんと言うか効率の良さで言うと彼女の銛のほうが遥かに良い、確実性とかなら俺の方が一歩勝るだろうが単純な一点特化という意味では譲ってしまう、サイズ的には常に負けだが数と種類では勝つ。
まぁ勝ったからと言ってどうだという話しだが。
本日も小アジやハゼが大漁となる、これだけ有れば焼き干しには十分だな。
丁寧に処理して拠点に戻る、さてとりあえず準備だけして着火は墨巣さんにやってもらうとしよう。
薪を組み上げ、特に燃えやすそうな布をセットして後は成果を譲るだけだ、経過を抜いたのはどうかとも思うがまごつくと辺りは漆黒の闇だ、満月も近いから手元は見えるだろうが安全性と確実性を考えると明日の昼に回した方が良いだろう。
「じゃあ、一度やってみようか」
そう告げながらファイアスターターを手渡す。
全く予想してなかったようで面食らっているが、お膳立てはしているのだからスパルタ式よりはかなり優しいし、指導やアドバイスも幾らでも受け付けるしトライ回数に限りはない、後はやる気が有るか、途中で諦めないかの問題で、スポーツ少女となれば簡単に諦めるような気質ではないだろう。
「私不器用だし、たぶん着かないわよ? トライアンドエラーが何回繰り返されるか解らないわ、それでも良いの?」
そんな後ろ向きな言葉に対する答えは一言である、すなわち
「レッツトライ」
と短い、無責任にも感じられる言葉で終える。
一回目、失敗、少し擦る位置が高いので補整し、二回目も失敗、今度は躊躇って火花があまり散らなかった、擦る時は一気にと指導して、いよいよ三度目、正直とはならずに失敗、どうにも躊躇いというか恐怖感が有るらしいのでそこまで怖がらなくて良いとアドバイスをして四回目、種火が灯るも焦って消してしまい失敗、五度目のチャレンジでようやく炎が灯った。
予想よりは時間が掛かったがまぁ成功と言えるだろう、次からはもう少し早くなるだろうし繰り返し施行すれば習得できる類いの物だしな、とりあえずはお膳立てして着火に慣れて貰うところから始めよう。
空気の通りを考えた薪の組み方はもう少し後から教えるとしよう。
灯った炎で魚を焼いては干していく、その分を焼き干しを炙る事で補充し、焼石でクロダイを焼き上げて夕食の時間となる。
いつもより遅めの夕飯を済まし、片付けと明日の準備を済まして眠る為の準備だが、さて困った事にまた外での睡眠となるわけだが、今回は体を預けるための壁はない、流石にテントに寄りかかるわけにもいかないしな、かと言って木に寄りかかると警戒網に近すぎて危険度が増す。
となると地面に寝転がるくらいしか手段がなくなる、仮に墨巣さんが同じテントで寝ても良いと言った所で様々な物によって床の半分が埋まり一人が横になるのがやっとこさ、諦めるしかないだろう。




