長かった一日
「当たり前だけどそんな事はしないって、とりあえずスピーカーを切って母さんに任せるのが普通でしょ」
そう言い切る、ちゃんと気付いてましたよと言外に嘯いてスピーカーを切り携帯を墨巣さんに差し出す。
電話の向こうで祖父の弁明も聞こえていたが頑張って諌めてくれ、俺の方はとにかく逃げを打たせてもらおう。
少し離れた位置でお袋と会話する墨巣さんの声を極力シャットダウンしつつ焚き火に薪を追加する、さて、しかし困ったな。
こらから先の予定をどう組むべきだろう、墨巣さんとの共同生活は確定として、その先はどうなる、ずっと拠点を共にするのか別れるのかすら不明では予定を立てるのも難しい、流石に俺の拠点を譲って他所に移れとは言わないだろうし、そこまで離れた位置に拠点を敷いたりはしないだろうが、それはそれで問題も出てきそうだ、とりあえず墨巣さんの問題が片付くまでの共同生活としても期間が決まっていないし、基礎部分の指導だけに止めてその後は任せるのが妥当だろうな。
今日の動きからおんぶに抱っこじゃなさそうなだけ、かなりマシだし楽だ、お客様気分でいられるほど此処は甘くないし俺もそこまで優しくはない、まぁ運動能力はあるみたいだし、食糧確保も問題なさそうだから俺の仕事も余りないだろうな。
まぁ作業を分担して共同生活というのも十分にあり得るし、とりあえず火の起こし方から教えて行くとしようか。
「電話、終わったわよ」
そんな短い言葉と共に電話が差し出される、充電を考えると明日も日光の下に放置だな。
「何か言ってた? 具体的な時間とか」
「とりあえず荷物が纏まってから連絡するそうよ、だいたい2日くらいだと思うわ」
俺の問いは予想していたらしく瞬時に答えが帰ってきた、2日となればもうこちらの拠点にいないと思うのだが、さて荷物の受け取りを考えると最低でも4日は此処での生活になる、けっこうキツいな。
まぁ良いとしよう、手間でも一度本拠地に戻ってロープなんかを置きに行っても良いわけだし、なんなら明日にでも戻って連絡が取れたと同時に移動しても良いのだ。
「俺はそろそろ寝るよ、とりあえずシェルターと寝袋は貸すから、ただ流石に此処から離れた場所で寝るのは無理だからそこだけは我慢してくれ、なんなら木に縛り付けてくれと言えれば良いけどアレがいるし諦めて」
そう一方的に告げシェルターの壁に寄りかかり静かに目を閉じる、浅い眠りになるだろうがそれも数日の我慢だ、耐えられないというほどでもない。




