後手
さて、時間的にそろそろだと思うのだが何時だろうか。
充電したままで放置していた電話を手に取りバッテリー残量と時間を確認する、67%で19時12分か仮にゴタゴタしていたとしてもそこまでずれ込まないだろうから本当にそろそろだな。
そのまま夕食の片付けを二人でしつつ時間を潰しているとようやく電子音が鳴り響いた。
すぐさま通話ボタンをプッシュをプッシュしてそのままスピーカーモードに切り替える。
「健太だけど、もうスピーカーに切り替えてるから始めて良いよ」
挨拶もなくそう切り出すところからスタートする、充電を考えると変に会話を伸ばしたくはないからな、礼儀的な問題はあるが家族だし構わないだろう。
「ふむ、まず端的に言うと後手に回りすぎてとりあえず警察とマスコミにストップ掛けるのが間に合わなかった、なんとかリカバリーはできたとは思うがおかげで時間が掛かって仕方がない」
「世間には現状、墨巣さんは海難事故で生存はほぼないと思われとる、曰く泳いでたら鮫に襲われたというのが筋書きで助ける助けられず死に逝くのを見るしかなかったと船の上から通報が有ったらしい」
そんな切り出しから祖父の話がスタートする、正直に言えばマスコミの対応で後手に回ったのは痛いな、我が家は何度も彼らと友好的だったり敵対したりを繰り返してその力の強さは嫌と言うほど身に染みている、しかも折り悪く今は敵対中で話を通しにくく、また下手を打てばまた奇妙な一族だの、闇献金の一族だのと週刊誌に書かれかねない、別に名前や顔が出るわけではないが頑張れば特定できてしまい、鬱陶しい事この上ないからな。
「とりあえず今は各所に話を回して墨巣さんの無事を秘匿次項として伝えてはいるが、まだ本人確認も済んでいないし、そこまでの効果が期待できない、その辺りは数日中に片が付くが、それ以降はかなり長くなりそうだ」
「そこで、主な方針を挙げさせてもらうが構わんかね?」
話を聞く限り状況は良いとは言えないようだな、いくらなんでも予想の範疇から外れ過ぎていろいろとやっていた筈の準備や対策が機能していないと見える、こうなるとやはり俺の危機感知能力は使えないという事を如実に叩き付けられた気分だ。
「とりあえず聞かせてください」
そんな墨巣さんの言葉は苦々しげというか仕方なくと言うかしぶしぶといった感が強い、まぁ彼女としてはやりたい事が有っても何もできないのが現状で、そもそも大学生に解決できるような問題ではない辺りで理想との相違に苦しむことすらできないはずなのだが、下手に変な一族と関わったせいで欲が出たと言うか、なんとなく手段を選ぼうとしたいのだろうと感じられる。




