高田家史その2
「私からすると十分な精度と能力に見えるけれども、それでもまだ足りないって事は初代の逸話がまだまだありそうね」
そんな感想に対しての答えとしては有りすぎて枚挙に暇が無いと言うのが返答となる、彼の御仁が病に倒れるその日まで喜一が負けた事は一度足りともないのだから。
「まぁ墨巣さんに解るように言うならコンマ一秒の差みたいな物かな、同じ距離を走っても敗者と勝者はほんの僅かな差で決するだろ? その差は選手からしたら許容できないのと同じだ」
「それと逸話なら山ほどある、因みに初代とは言っても財を成したって意味で高田の姓を受けたのはさらに数代前に遡るらしい、初代喜一と並んで高田家が眉唾扱いされる所以の一つだな」
歴代将軍の手紙とか、その他文献なら売るほど倉にあるし、文系に進んだ我が家の人間が卒論代わりに研究所に持ち込んだりしているが、物は本物だが内容は冗談の部類というのが歴史家の総意となっている、そのくせ我が家の倉を調べさせろとか言ってくるのだから質が悪く、余程の理由がなければ門外不出と昭和の終わり頃に決まったらしい。
まぁ、かなり価値の高い手紙とか贈答品とかがゴロゴロしてるから調査に乗じて盗まれないようにという意味も有るらしいが。
「それでも凄いとは思うけど、因みにその所以って聞いてもいい?」
ふむ、もはや警戒心はないらしいな、かなり口調が柔らかいやはりお話をして正解だったな。
「一説には武田信玄の窮地を救い田の文字を取って高田、もしくは信長らしいが、まず間違いなく眉唾だな、喜一の出身が飛騨の方で農家だったらしいからその関係だと思う」
個人的には信長由来なら家康と関連してかなりの縁を感じて好きなんだがな、ただ秀吉と光秀がハブとなっていてその辺りの逸話も欲しい所ではあるが。
仮に有ったら天下を掴み掛けた男に3日掴んだ男、天下人となった男に息子達に繋いで納めた男、四人の天下を掴んだ男との関係を持った稀有な家系となる、いや持ってない今でさえ稀有を通り越して異常な家系ではあるのだが。
うん、この辺りが近所以外で胡散臭い一族扱いされる理由だろうな、ご近所さんでさえびっくり人間集団とおもっているらしいし、それを否定できないのだが。
「へぇ、でも名前の所以が解るだけ良いじゃない、私なんて墨巣の所以なんて知らないもの、遠い祖先に外国人がいたからなのか、それともずっとこの名前なのか、残念だけど家系図なんかもないから」
まぁ普通はそうだよな、名前の所以を知ってる家なんてあまりいないだろう、それでも大まかな予想はできるのだが、墨巣の場合は炭焼き職人だったのが漢字を変えたとか、書家だったとかになるのかね、或いは彼女の言うように先祖に帰化した外国人がいたからなのか、それを判断する手だてはない、いや役所とかで聞けば調べては貰えるだろうから手だては有るのか。
あぁそう言えばになるが、俺が或いは我が一族がその天運を過信できない理由が初代の病死にあるのは言った方が良いのだろうか? 俺達の幸運は勝負や賭け以外にはそこまでの効果はないのだ、つまるところ、勝負とか全く関係ない場所でやり込めようと思えば余裕で倒せるし殺せる程度の幸運でしかない、逆を言えば勝負事で運が絡むならほぼ勝てるという事でもあるのだが。




