万分の一
「ふざけてるでしょ? 即興にしてはそこそこ面白かったけど」
うん反応はまずまずだな、この話を他人にすると馬鹿にするなと怒るか苦笑するか、もしくは怪訝な目で見られるかだ。
苦笑なら悪くはない、なんせ証明は容易いんだから、怒っていた場合は余計に怒らせるからできないし、怪訝な目で見られているとぶちギレられるからな。
「この石を左右どちらかの手に隠してくれ、なんならズボンのポケットに入れるくらいなら許容してやるから」
そう告げて適当に拾った石を渡して後ろを向く。
「良いわよ」の声に「右手」と短く答え、その後右手右手左手小さいポケット右後ろポケット左手と順調に当てる。
「確かに凄いわね、何処まで行けるのかしらね?」
その問いの答えは非常に難しいのだが大まかな予想は着いている。
「いや、たぶんそろそろ外れるな、で二回くらい外してまた同じくらい当てる、俺の引きはその程度だから」
そう答えて左手を選択して外す、初代なら外さないんだがな。
俺の幸運なんてこの程度でしかない、まぁかなり良いが天運持ち以外の嫡男としては平均やや上程度だ。
「えっと、七連続だから2、4、8、16、32、64、128、128分の一か、確かに凄いわね」
指折り数えているところ申し訳ないがそれでは50点だな。
「石が有るか無いかの成果で言うとそうなるけど選択肢で計算するとたぶん引くよ、くじとか引くと買った枚数によるけど2年に一回は大金転がり込んでくるし、麻雀やったら一回は天和するし、ポーカーやったら初手フルハウスとかが我が家のデフォルトだから」
そう正す、確かに成功か失敗の二択なら間違ってはいないんだが、実際は両手とズボンのポケット5ヵ所からの選択で七の七乗になるため数字は莫大な物になる、少なくとも計算したくはないな。
「えっと、軽く一万越えたから止めたけど、これなら賽子振れば危険の要因とか掴めるんじゃないの? 数万分の一の確率を引けるなら余裕でしょ?」
まぁ気持ちは解るが残念ながらそう単純じゃない。
「残念ながら無理だな、コンマ数パーセント以下の確率でも失敗の目が有るんだ、そもそも信頼性に欠けるのに確実性がないならそれはもう信用に足る物にはなり得ない、何度も重ねて確認したところで悪い目が重なった可能性がある以上は俺はそれを信頼しない、初代みたいに絶対がない以上はこんなものはちょっと生活が潤う程度の物でしかないんだよ」
俺としても非常に残念なのだが0とコンマ1とでは僅かではあるが差が出てしまうコンマの後に幾つもの0を積み重ねた所で結局は僅かな誤差が生まれ、その誤差は許容範囲から大きく外れる、この場合の許容範囲が0である以上は僅かな数値のズレでも使い物にはならない。
これは俺達高田家の男が背負う宿命で業という奴だな、およそ七世紀近くが経っていて初代に相当する天運持ちは一人たりともいない、俺からしたら化け物の祖父でさえ負ける事があるらしい以上、歴代の方々もまたそうなのだろう、ただ一人高田家初代喜一を除いては。




