墨巣麻里の事情
1ヶ月前に患った肺炎のおかげで私の肺機能は少し低下して、その治療のための休暇を利用しての家族旅行として、両親と一緒に会社を経営する前田さんが所有するクルーザーでの航海に出た。
6月17日に神奈川を出発してそのまま沖で一泊、そのうち両親が起きた気配がして、あぁそろそろ朝ごはんだなと思っていたら水面に影が写った、私の影に覆い被さるようなその影は腕を振り上げていて何かを持っていた。
咄嗟に海に飛び込んだ私の肩に何かが当たって次の瞬間には海の中に居た。
海から頭を出して息を吸った私が見たのは、銛を発射する銃を構えた両親とハンマーを片手にした前田さんで、あぁ私は殺されるんだなと、どこか他人事のように感じて、すぐに考えを改めて息継ぎも満足にしないまま深く潜ってとにかくその場から離れようとして。
その間も何度も何度も銛が海中に現れて、酷い時には体の真横を通り過ぎた。
どんどん息が苦しくなる中でとにかく船から離れて隙を見て息継ぎをして、すぐにまた潜ってとにかくめちゃめちゃに泳ぎ続けた。
その内に船からかなり離れてなんとか逃げ切った頃、エンジンを吹かして何処かに消え去り命を繋いだと安心すると同時にこの広い海にたった一人で、浮き輪もなければ水着でもない状態で放置された。
このままだと運良く船が通り掛からない限りは間違いなく私は死ぬ、とにかく体力を温存するために泳ぐのを止めて体を浮かせながらどうして両親が私を殺そうとしたのかを考え、すぐに考えを捨てた。
理由に全く覚えはない、自分で言うのもなんだが私は普通の子供で不良とかではなく、ただスポーツが上手いだけの何処にでもいる女の子だ、別に親不孝をした覚えはないし、直近で酷い親子喧嘩をした覚えもない、仮にしていたとしても殺されるような理由にはならないし、理由を考えるよりも生き残る方が急務だった。
その後はひたすら潮に流されながら島陰や船、飛行機を探す時間が過ぎてゆき、太陽がかなり高くなってきた頃にようやく陸地を見つけて、そこを目指してがむしゃらに泳ぎ続けた。
運良く潮に押されて小さな点だった島はどんどん大きくなって、なんとか泳ぎ着いて、そのあと健太さんに声を掛けられました。




